バカにしないで

 ライブが終わった。

 


 大失敗だった。リズムもバラバラ、ダンスもミスるし、お客さんのペンライトは、星ではなく鋭く光る目のように見えた。


「バカにしないで!」


2人で会話することなく会場を後にしていた時に急にそう怒鳴られた。私たちは2人ともびっくりして声のする方を見た。


「あなたは、私たちの前に歌っていた、」


「あんな滅茶苦茶な歌、ダンス、それに途中から笑顔ですらなかった!本気でやってる人たちをバカにしてるような完成度でのうのうと出てこないで!」


「三葉、やめなさい。」


声を荒げていた方はツインテールの子、その子を止めるのがその子より背が高いポニーテールの子だった。


「ごめんなさい、妹が。ですが、私もあの完成度はどうかと思います。私たちはライバルである以前にお客様に笑顔を届ける仲間でもあるのです。」


そういって2人は去った。


 胸に強く突き刺さる。


 たくさんの星を見たい。アイドルになりたい。そんな思いが強く早くライブがしたいとそれだけを考えていた。完成度を、お客さんを笑顔にするためと言うことを後回しにしてしまっていた。星を作るのは、私たちを満たされているお客さんたちなのに、!


「葵ちゃん、」


 私は、アイドル失格だ。


 でも、アイドルになると心に決めた日から毎日練習をしてきた、なのにこの醜態。

  

 もしかしたら私は、アイドルの才能がないのかもしれない。今までの努力は無駄だったのだ


「ごめんね、ゆりちゃん、」


「ううん、!葵ちゃんは悪くないよ、私が体力もダンスもまだまだだから、」



違う。それは仕方のないことだ。だから練習をする。それなのに私は自分のことを棚に上げてそれを言い、準備が万全でないとわかっていたのに自分のやりたいことしか見えていなかった


「アイドル、向いてないんだ」


「え、?」


「だって、そうでしょ、ずっと努力してきたのに下手くそで、それなのにゆりちゃんに上から言って、無理やりイベントに出て、」


「葵ちゃん、」


「ゆりちゃんごめん、ゆりちゃんはすごいよ、よかったらこれからもアイドルを続けて欲しいな、誘っておいてこれも無責任だけど。私はもう無理だよ、努力してもだめなんだよ、」


「努力は裏切らないわよ」


聞いたことのない声に後ろを振り返ると、なっちゃんともう1人知らない子がいた。その子が言ったのだろう。


「誰、そんなことないよ。私はずっと努力してきたけどダメだった。その上自分しか見えてなくて、だから諦めるしかないんだよ、」


「努力は裏切らないわ。」


同じことを言うその子につい声を荒げてしまう


「だから!努力してもダメだったんだよ!だから無理なんだよ、!」


「努力は裏切らないわ。今、あなたが努力を裏切ろうとしているの。今までやってきた努力をあなたが諦めることで裏切ろうとしているの。

、、、この言葉は受け売りなの。私にもう一度アイドルになりたいと思わせてくれた人のね」


「それに葵に諦めるなんて似合わないよー。ずっと頑張って来てたじゃん。」


「なっちゃん、」


そうだ。諦めるなんて私らしくない。


才能がない?元々ないものを欲しがる暇があるなら努力をしろ。


「メンバー、募集しているんでしょ。私、最上蘭が立候補するわ。」


突然のその言葉に驚かされた


「言ったでしょ。葵を手伝うって。バッチリメンバー候補確保いたしました!一つ上の蘭先輩です!」


、!


「葵ちゃん、私に勇気をくれたのは葵ちゃんだよ!」


、!!


「なにー。泣いてるの?葵」


「泣いてない!」 


こんなにも、いい仲間、いい友達をもったことが嬉しいんだ。


「諦めるなんて似合わないよ!何回だってやってやる!私がアイドル界の一番星になって、いくつもの小さな星を!見るんだ!」


「うん!」


「ええ。」


「おー!」


「中村葵、リスタートです!」

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