剣士なので盗賊退治する
「プリケツ、そろそろか?」
「殺す」
俺が声を潜めて尋ねると、プリケツも同じく声を潜めながら頷いた。
俺は森の中にあるというとある洞窟を目指していた。
共にいるのはプリケツ、ロロは宿屋に先に帰ってもらっている。
目的は、奴隷になる前のプリケツが繋がっていたという盗賊団を退治するためだ。
その存在を知ってしまった以上、見過ごせるものではないからな。
「手筈通りだ。まずはお前が洞窟に突入し、盗賊を上手いこと誘導しろ。その隙に俺が捕まっている人たちを助ける。そのあとは、正面から捻りつぶして捕まえるぞ」
「死ね」
作戦はシンプルだが、成功率は高いだろう。
なにせ、プリケツは盗賊たちからしたら仲間。
彼なら難なく盗賊たちを誘導することができるはずだ。
「……あの洞窟か」
森を進み、やがて目的地が見えた。
岩壁にできた横穴の洞窟で、その前には2人の人間が座り込んで駄弁っているようだ。
おそらく、アジトの門番をしている盗賊だろう。
緊張感のかけらもないが。
「よし、プリケツ。行け」
「殺す」
プリケツを促すと、彼は立ち上がり洞窟の方へと向かっていった。
堂々とやってくるプリケツに、洞窟の前にいる盗賊たちはすぐに気づいたようだ。
「ん? あれ、ケッツさんじゃないっすか。今日来る日でしたっけ」
「いや、待て。本当にケッツさんか? ケッツさんはこんなふうに笑わないだろ。めちゃくちゃ笑顔だぞ」
「たしかに……ケッツさんのこんな笑顔なんて見たことないっすね。あの人が笑うときは、たいてい人を嘲笑するときだけっす」
盗賊の2人が、ひそひそと話す。
並外れた聴力でそれを聞き取った俺は、雲行きの怪しさをなんとなく感じ始めていた。
「でも、顔の傷とかケッツさんっすよ。それに体格も間違いないっす」
「そうなんだよな。見た目はケッツさんなんだが……」
やがて、洞窟の入り口までたどり着いたプリケツが2人へと話しかける。
「よお、久しぶりだな」
「お、お久しぶりっす。あの、ケッツさんっすよね?」
「何を当たり前のことを聞きやがる。んなもんもちろん。俺はケッ――! ケッ――!? ケ、ケケケケケケッ――! ――!! な、名乗れない――ッ!!」
「な、なんか様子がおかしいぞ?」
「ケ、ケッツさん? ど、どうしたんすか?」
盗賊に
それを見た盗賊たちが戸惑う中、ケッツは突如として大きな声で叫ぶ。
「違う! 違わないけど、違う!! 俺はケッツじゃない!!! 俺はプリケツだッ!!!!!!」
「!? や、やっぱケッツさんじゃないんだな!? どうりでおかしいと思ったんだ! そんな気持ち悪い笑顔を浮かべやがって!!」
「て、敵襲ー!! 敵襲っす!!! 敵襲!!!!」
何やってるんだあいつ。
めちゃくちゃ警戒された挙句、完全に敵扱いされてるじゃん。
俺の奴隷が使えなさすぎる。
仕方ないので、俺は隠れていた茂みから飛び出して盗賊たちへと奇襲をかける。
「そらっ!」
「ぐべっ!?」
「!? ぞ、増援――!?」
「お前も黙れ!!」
「えふっ!?」
2人の盗賊は魔法使いではあるが、たいして強くなかったらしい。
殺さないよう鞘に納められたままの剣で殴りつけたが、魔法防御を破壊してその勢いのまま倒すことができた。
「おい、プリケツ。お前はこんな簡単な仕事もできないのか?」
「これ俺が悪いのか!? お前の命令のせいだろうが!!! というか、プリケツって何なんだよ! ふざけやがって!」
「ふざけてるのはお前の名前だろ」
「あああああああああああああああああ!!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!」
「うるさい」
俺はいきなり騒ぎ出したプリケツのケツを蹴り飛ばし、黙らせる。
「気合い入っているところ悪いが、盗賊にはしっかりと社会奉仕させて罪を償わせる。可能な限り殺さず生捕りだからな」
「――す! こ、殺す!! お前は絶対にいつか殺す!」
「よし、乗り込むぞ。正面突破だ」
これだけ騒いでしまえばもう隠密行動なんてできない。
俺は鞘に納まったままの剣を片手に、洞窟の中へと足を踏み入れた。
「お前らが敵襲か!? おいおい、たった2人で乗り込んでくるとは良い度胸だな!? 俺たちが天下の『キレジー盗賊団』だと知らないのか!?」
「知ってるから来たんだよ」
洞窟を進んでいくと、ぞろぞろと盗賊が現れる。
大物っぽい雰囲気の男と、それに付き従う10人以上の集団だ。
プリケツに事前に聞いていた情報によると、たしか幹部の1人であるウコンだったか。
冒険者の強さで例えると、Dランク相当という話だ。
それなりに強い魔法使いと言える。
「馬鹿な奴らめ! この『どん詰まりのウコン』さまの前にひれ伏せ!!」
ウコンが魔法を発動する。
それは壁だった。
俺の進行方向、洞窟の道を塞ぐように巨大な茶色い土の壁が出現する。
「ククク。どうだ、お前にこの巨大で分厚いどん詰まりの茶色いブツを突破することができるか?」
「さ、さすがウコンさん! 閉鎖的な環境において、圧倒的な防衛力を誇るウコンさんのどん詰まりッ!!」
「す、すげえ! まさにどん詰まり! どん詰まりのウコンだ!! どん詰まりウコン!!」
「ククク、しかもな。このどん詰まり、動くぜ?
ズズッ――
そんな音を立てながら、土壁が少しずつゆっくりと俺たちの方向へと動き出す。
なるほど。
道を塞ぐほどの巨大な土壁を生成しそれで侵入者を阻むというのは、単純だがこの洞窟という環境ならかなり有効な戦術だ。
「だがまぁ、土の壁なんて鉄と比べれば脆いもんだろ」
俺は鞘から剣を引き抜き、切先を土壁へと向ける。
一歩、二歩、三歩。
そのまま駆け出し、勢いのまま体中のエネルギーをすべて剣の切先へと集中させる。
そして放つ、渾身の突き――
「――伍の剣【
その一撃は、土壁を貫き穴を穿ち。
一瞬遅れて発生した荒れ狂う力の奔流にって、土壁は木っ端微塵に吹き飛んだ。
「な、え、あ?」
あぜんと固まるウコン。
周囲の取り巻きは、吹き飛んだ土壁の残骸に打ち据えられそのほとんどがすでに倒れていた。
俺はウコンへと、剣を向ける。
「!? ま、待っ――」
「待たない」
振り下ろす剣で魔法防御を破壊し、呆気に取られるウコンの首筋へと跳躍蹴りをかまして気絶させた。
「ふざけやがって。こんなん、おかしいだろ。こいつ本当にめちゃくちゃすぎる」
「プリケツ。さっさと行くぞ」
ウコンを手早く片付けた俺は洞窟の奥へと歩を進める。
この調子で、とっとと終わらせようか。
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