剣士なら人助けは当然
プリケツとは別行動をすることにした。
奴隷とはいえ人間。プライベートというものがある。
俺は奴隷の人権を無視した理不尽な主人にはなりたくないからな。
放っておいても俺の命令によって悪事を働くことができないし、問題はないだろう。
「えーと、この辺の森に出るんだったか」
俺は1人、街を出て近くの森へと来ていた。
ギルドで受けたゴブリン討伐の依頼を達成するためだ。
ゴブリン討伐は初心者のGランク冒険者向けの依頼で、Dランクの俺には簡単すぎるもの。
だけど、初めての冒険者活動ということでここは堅実にゴブリン討伐の依頼を受けることにしたのだ。
「さて、ゴブリンは……」
森を歩きゴブリンを探す。
すると、すぐに近くに生物の気配を感じた。
「そこか」
木の裏。
そこに隠れてこちらの様子を伺っていたゴブリンへと、ひと息に近づく。
ゴブリンは一気に近づいてきた俺に反応できず固まったまま。
俺は剣をゴブリンめがけて振りかざした。
「――ふっ!」
ゴブリンの魔法防御を破る感触。
まるで薄紙を裂くようにそれを通り抜け、勢いそのままに俺はゴブリンを真っ二つに斬り裂いた。
「ま、最下級の魔物はこんなもんか。魔法防御も無いに等しいな。プリケツのものとは比べるべくもない」
魔物はその種族名に『魔』を冠する通り魔力を持つ。
そして、この世界に生きる魔力を持つ生物はすべて魔法防御を備えている。
最下級のゴブリンと言えど、それは変わらず。
「魔法防御は魔法に強いけど、それ以上にとにかく物理に強い。俺みたいに鍛えれば破れるけど、魔力の有無で人間の基本性能がこれだけ違うとなるとな」
魔力を持っていれば、たとえ魔法を習得していなくとも魔法防御を発動できる。
一方で魔力を持たなければ魔法にも物理にも等しく弱く、攻撃されれば素の肉体の耐久力で耐える他ない。
魔力を持つ人と、持たない人。
これでは、そもそものスタート地点があまりにも違う。
この世界が魔法至上主義で、俺のような非魔法使いが下に見られる理由がこれだ。
「だけどまあ、そんなのは鍛えればどうとでもなる。鍛えれば鍛えるだけ、身体能力が前世の人類とは比較にならないほど強くなるんだからな。魔力がなくてもそれだけで十分だ」
実際、プリケツには勝てた。
あいつはかなり強い魔法使いらしいから、それに勝った今の俺は並の魔法使いよりも強いということになる。
魔力がない剣士でもやれるという確信を早々に持てたのは幸いだった。
となれば、目指すは世界最強。
そのためにひたすら努力を重ねるだけだ。俺の憧れた剣士たちは魔法使いになんて負けないからな。
「さて、ゴブリンを倒して回るかな」
今しがた倒したゴブリンの討伐証明となる魔石を回収して、改めて森を歩いていく。
トレーニングによって鍛え上げた鋭敏な五感と第六感で気配を察知しながら歩けば、隠れているゴブリンでもすぐに見つけられるので簡単な作業だ。
あっという間に持ってきた布袋が魔石でいっぱいになった。
「50体くらいか。とりあえずこの辺で終わりだな」
これだけゴブリンを倒せば依頼は余裕で達成だ。
初めての仕事を終えた達成感を感じながら来た道を返して街へと向かう。
そんな最中、ふと俺の耳が小さな声を拾った。
「ん、悲鳴? ……あっちか」
おそらく少女の声だ。
魔物か何かに襲われているようで、一刻を争う事態だ。
「足場が不安定な森の中を走るのは難しいし、手っ取り早く上から行くか」
俺はさっと跳ぶと樹上へと上がる。
そうして、悲鳴の聞こえた方へと木々を飛び渡りながら急いで向かった。
それなりの距離を行くと、悲鳴の主の元へと辿り着く。
「小さな子どもと……あれはオーガか」
おそらく10歳程度の少女。
ボロボロの服を着せられていて、足元には足枷をかけられている。
その前には、真っ赤な肌をした角の生えた魔物。
人間のサイズではありえないほど大きな人型の姿をしていて、その手には巨大な棍棒を携えている。
昔、家の本で見たことがある。
たしかCランクの強力な魔物であるオーガだ。
「ひ、ひいいいいい!!」
足枷のせいで満足に動けない少女がじりじりと後ろに下がると、オーガはニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべる。
害悪でしかない魔物風情が、不愉快だな。
木の上にいた俺は少女とオーガの間へと飛び降りる。
「え……だ、誰?」
「通りすがりの剣士だ」
怯えた様子の少女を安心させるように笑いかけ、オーガと向かい合う。
さっきまでは見下ろすだけだった。
しかしこうして対面してみると、その大きさがよくわかる。
おそらく、俺の倍は背丈があるな。
「さて」
剣を構える。
俺が攻撃の態勢に移ったことで、オーガもまた巨大な棍棒をいつでも振るえるように身構えたようだ。
「この程度、鎧袖一触でないと剣士じゃないよな」
どっ、と勢いよく地面を蹴る。
剣を下段に構えたままオーガとの距離を詰めるべく疾走し、その懐へと潜り込む。
「ゴアアア!!」
そんなことはさせないと言わんばかりに、叩きつけられる棍棒を最小限の動きでスレスレの回避。
攻撃の直後でできたオーガの隙を逃さず、俺は剣を振り上げた。
「参の剣――【
現れるオーガの魔法防御。
それはゴブリンのものより遥かに硬く、プリケツにも迫る強度。
しかしそれでも俺の剣を止めるには至らない。
下段から放たれた俺の剣は、まるで欠けた月のような軌跡を描いて魔力の障壁もろともオーガを両断した。
「ゴ、アア……」
オーガは呆気に取られたような顔でうめき声を漏らすと、その巨体を倒して息絶えた。
「なるほど、Cランクの魔物くらいなら楽勝か」
俺は剣を鞘に納めて確かめるように呟いた。
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