第20話 清二の熱意

薫が腕を骨折してから数日が経った。


彼女は病院での治療を終え、家に戻っていたが、回復にはまだ時間がかかるそうだった。


医師からは安静が必要だと告げられており、右腕を使うことができないため、日常の多くのことが不便になっていた。


「ごめんなさい、お父様。こんな私ではお茶の手伝いもできません…」薫は涙を浮かべながら、父の修蔵に謝った。


修蔵は娘の肩に手を置き、優しく言った。


「薫、お前は無理をしなくていい。清二さんがいるから大丈夫だ。」


その言葉に、薫は少しほっとしたような表情を見せたが、それでも心の中では自分の無力さに苛立ちを感じていた。


薫は左手でできる限りのことをしようと努力していたが、右手が使えない不自由さは日々の生活に重くのしかかっていた。


一方、清二は薫の代わりに茶屋で働くことを決意していた。


彼は薫から学んだ茶道の技術を思い出しながら、毎日精進していた。


清二は早朝から夜遅くまで茶屋に入り浸り、薫のお茶の味に近づけるために一心不乱に練習を続けた。


ある日、茶屋に訪れた客が清二に声をかけた。


「今日は薫さんはいらっしゃらないのですか?」


清二は微笑んで答えた。「薫さんはしばらく休養中です。代わりに私がお茶を点てますので、どうぞお楽しみください。」


客は少し不安そうな表情を見せたが、清二の真摯な態度に安心したのか、席に着いた。


清二は心を込めてお茶を点て、その客に提供した。


客が一口飲むと、驚いた表情を浮かべた。


「これは…素晴らしいお茶ですね。まるで薫さんのお茶のようだ。」客は満足そうに微笑んだ。


その日から、口コミが広がったのか清二の茶屋には次々と客が訪れるようになった。


地域の人々は清二の堅実な対応とお茶の美味しさに感動し、彼に対する信頼を深めていった。


茶屋は再び賑わいを取り戻し、清二はその姿を見て薫の回復を願う気持ちを強くした。


一方、藤田家では、茶屋の繁盛ぶりに対して苛立ちを感じていた。


藤田家の当主、隆一の父は清二の活躍に対し、冷ややかな視線を向けていた。


「清二という男、あの茶屋を立て直すつもりか…」隆一の父は部下たちに向かってつぶやいた。


隆一は父の意向に従い、茶屋に対して新たな策略を考えるよう指示された。


彼は内心で薫に対する思いと父の命令との間で葛藤していたが、最終的には父の期待に応えるために動く決意を固めた。


「再び圧力をかけるしかないか…」隆一はつぶやき、部下たちに次の指示を出した。


「清二と桜井家を再び窮地に追い込む策を考えろ。今度こそあの茶屋を潰す。そして薫をこの手に...」

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