第21話 受継ぐ
薫の回復が進む中、茶屋の繁盛も徐々に戻ってきた。
清二が薫の代わりに茶を点て、地域の人々からの信頼を得る姿を見た修蔵は、清二の熱意と努力を感じ取っていた。
その夜、店が閉まり、静けさが戻った茶屋の中で、修蔵は清二を呼び寄せた。
「清二君、少し話がある。付き合ってくれるか?」
清二は驚いたが、修蔵の厳しい表情に何か重大な話があると察し、うなずいた。
「はい、もちろんです。」
二人は茶屋の奥の座敷に移動し、静かな夜の中で向き合った。
修蔵は深いため息をつき、ゆっくりと話し始めた。
「清二君、君の働きぶりには本当に感謝している。薫の代わりに茶を点て、店を守ってくれていること、心から感謝している。」
清二は謙虚に頭を下げた。
「いえ、僕はただ、薫さんのためにできることをしているだけです。」
修蔵は微笑みながらも、少し厳しい表情を崩さずに続けた。
「それだけではない。君の姿を見ていると、この店を君に託してもいいのではないかと思うようになった。」
清二は驚き、目を見開いた。「店を…僕に?」
修蔵はうなずいた。
「そうだ。私はもう若くないし、体の調子も良くない。正直なところ、いつまでこの店を守れるかわからないんだ。薫にはまだ話していないが、彼女にとっても君が側にいることが一番だと思う。勝手だとはわかっている。東京での仕事がある事も理解している。」
清二は深く考え込み、沈黙が続いた。彼は自分がこの茶屋を継ぐことの意味を理解していたが、その重責に対する不安も感じていた。
「わかりました。お父様の信頼に応えるために、全力を尽くします。仕事は大丈夫です。辞表を出して駆けつけたので。」清二は決意を込めて答えた。
修蔵は微笑み、清二の肩に手を置いた。
「ありがとう、清二君。君なら、この店を守っていけると信じている。」
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次の日の早朝、清二は修蔵の体調を心配しながらも、前向きな気持ちで一日を始めた。
しかし、その日もまた不穏な影が忍び寄っていた。
修蔵は朝の仕事を終え、一息つこうとしていたところ、突然店の外で騒動が起きた。何人かの男たちが修蔵を取り囲み、そのうちの一人が荒々しく声を上げた。
「おい、桜井。店の経営が上手くいってるようだが、それも長くは続かないぞ。」
修蔵は冷静に対峙しようとしたが、男たちはすぐに暴力に訴えかけた。
修蔵は数人に取り押さえられ、無抵抗のまま殴られた。痛みに呻きながらも、修蔵は男たちの顔を見上げた。
「藤田家の指示か…」修蔵は辛うじて声を絞り出した。
男たちは無言のまま立ち去り、倒れた修蔵を残して去っていった。清二は騒ぎを聞きつけて外に飛び出し、倒れている修蔵を見つけた。
「お父様!」清二は駆け寄り、修蔵を抱き起こした。
「清二君…すまない…」修蔵は痛みに耐えながら、微弱な声で謝った。
清二は修蔵の体を支えながら、必死に医師の所まで走った。彼の胸の中には、藤田家に対する怒りと、修蔵を守り抜くという決意が燃え上がっていた。
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