第16話:助かった海斗君。

「堤防から落ちて溺れたみたいなんだ・・・この人たちが海斗を

見つけてくれて助け上げてくれたらしい・・・


父親が母親に言った。


ああ・・・どうしよう、海斗・・・あ、すぐに救急車呼ばなきゃ」


母親はパニックになった。


「そんなもの呼んでたら、とても間に合わんわ」


「私、カイト君を救います」


「やれるか?小玉・・・」


「大丈夫・・・カイト君まだ心臓は動いてるから・・・」

「お父さん、お母さん、私を信じて任せていただけますか?」


「小玉は、治癒力を持ってるんじゃ・・・この程度なら、この子は

助かる・・・小玉に任せろ・・・」


両親はタマちゃんが救急車なんか呼んでも間に合わんと言われたことも

あって小玉ちゃんを信じることにした。


「お願いします」


「カイト君は、かならず私が救います」


そう言うと小玉ちゃんは海斗の胸に両手をあてると一心に集中した。

昼間とはいえ大志には小玉ちゃんの両手から淡い光が溢れるのが見えた。

大志にはその光景が神々しく見えて、やっぱり小玉ちゃんは女神なんだって思った。


小玉ちゃんは、ほんの数分カイト君に力を注いだ。


そしたらカイト君は口から海水を吐いてゴホゴホ咳をしながら目を覚ました。


「カイト君大丈夫?」


目覚めた海斗は、ゆっくり起き上がると母親を見つけてすぐ母親の

もとへ行くと抱きついた。

そして今気づいたように泣き出した。

海斗は自分でも何が起きたのか分かっていなかったかもしれない。


「海斗・・・ごめんね、もう大丈夫だからね・・・」


母親は海斗を抱きしめた。


「助かってよかった」


大志は胸をなでおろした。


偶然にも大志と小玉ちゃんとタマちゃんがいたことで海斗の命は救われた。

もし、このキャンプ場に三人がいなかったら・・・それは考えないほうが

いいだろう。


大志は自分の子供の頃の出来事を思い出してた。

それは今日の海斗と同じように大志の大切な親友が河で溺れて亡くなったのだ。

そのことで大志は悲しみに囚われて、何年も苦しんだ。

あの時、小玉ちゃんがいてくれたら・・・思ってみてもしかたないことだった。


もう大丈夫と全員、キャンプ場にもどろうとした時・・・、


「ダイちゃん・・・」


小玉ちゃんは大志の腕を掴もうとして防波堤の上に崩れ落ちた。


「小玉ちゃん・・・大丈夫?」

「タマちゃん・・・小玉ちゃんが・・・」


「力を使ったからの・・・しばらくは目覚めんな」

「治癒力と体力を回復せねばならんでな・・・」


「え?・・・まさか自分の世界に帰っちゃったりしませんよね」


「まあ、このくらいでは大丈夫と思うがな・・・」

「治癒力を使ったのは数分じゃが小玉には充分な負担じゃ」

「寝かせておいてやれ・・・」


「とりあえず俺、小玉ちゃんをタープまで運びます」


そういうと大志は小玉ちゃんを抱きかかえた。


「小玉ちゃん・・・しっかり・・・」


大志の目から涙がこぼれ落ちた。

小玉ちゃんの献身的な光景を見たことと安堵感と、そして小玉ちゃんが

愛しくてたまらなくて自然と涙があふれた。


第17話につづくのじゃ。

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