重い片思い

みにくいあひるの子

重い片想い

 女の人に女性で生まれてよかったと思わせること、これは男の使命の一つだと僕は思っている。女性って大変だよね、トイレは並ぶし、髪の毛とかお化粧にお金も時間もかけなきゃいけないし、出産だってするのは女性だし・・・。

 こんな大変なことがいっぱいあって、あぁ男に生まれればよかったなぁ、なんて思うことないのかな。思ったとしても、思わなかったとしても、先天的に与えられた苦労を着々と乗り越えている女の人って、シンプルにすごいと思う。別に男が楽だって言いたいわけじゃないよ、でもそういうことを考えてると女に生まれてよかったなって思ってもらえるようにしなきゃな、ってつくづく思う。

 ちょこっと重いかな、それとも男子はみんなおんなじようなこと考えてるのかなぁ。でもちょっと自分でも重めのことを言っている自覚はある。これはそんな、ちょこっと重めな僕の恋の物語です。




 僕の名前は雄介、現在高校二年生。来年大学受験だねって思うかもしれないけど、僕が通っている高校は大学の附属高校で、毎年受験をする人というのはほとんどいない。例によって、僕も大学受験をする気はなく、内部進学で大学に進学するつもりだ。僕の友達の中にも受験をするという人は、今のところ一人もいない。また、僕の高校はいわゆる中高一貫の高校なので、高校受験もしていない。

 僕の周りの友達も、全員中学生時代からの仲間だ。校内でも、もうこの時期になると知らない人なんてほとんどいない。そして、僕の好きな人も中学生時代から変わらない。


 その人はハルカっていう名前。ハルカとは中学一年生、二年生とおんなじクラスだった。すんごく、かわいい。

 背は低めで、割とおとなしい性格の彼女、確か、一年生が始まって3回目の席替えで隣になった。それ以前にも、この子かわいいなって思っていたから、となりになった時は正直、ラッキーだと思った。それから結構な頻度で話すようになり、というか僕が話しかけるようになり、そして、LINEを交換するようにまでなった。

 その日から今日まで、LINEは一度だって途絶えたことがない。いつ本格的に好きになったのかはわからないが、この学校に入学してから、異性に関してはハルカのことしか見てこなかったと言っても過言ではない。ハルカのかわいさに気がついているのは、当然僕だけではなかった。中二の頃に修学旅行先の男子部屋でやった、クラス内で一番かわいい女の子を決める選挙では、二位と僅差ではあったものの、見事に一位を獲得していた。

 ただ、物静かな性格ということもあってか、ハルカと喋ったことのある男子はあんまりいない。そもそも、男女関わらずハルカは学校であまり積極的にだあれかに話しかけるタイプではない。それは高二になった今でも変わらない。LINEをしたことある人なんてほとんどいないんじゃないかなぁ。だから、おそらく男子の中で彼女の家庭環境について詳しく知っているのは僕だけであろう。


 彼女は、シングルマザーの家庭で今は母親と二人で暮らしている。両親が離婚したのは、まだ彼女が五歳の頃だそうだ。元父親は、ハルカが産まれてからというもの、だいぶ暴力的になったらしくて、本人曰く、ガムテープでぐるぐる巻きにされたこともあったそうだ。なぜ、父親がそうなったのかについては、ハルカは何も知らないらしい。そんなこともあり、ハルカのお母さんは逃げるように離婚を選択した。

 ハルカのお母さん自体も旦那から暴力を受けていたらしく、今では精神的にものすごく弱っている。ハルカのお母さんには、実は会ったことあるんだけど、すごく優しくていい人。いい人なんだけど、精神的に弱っているっていうのと、女性っていうのがあってか、稼ぎ自体はお世辞でも良いとは言えないみたい。具体的な数字を知っているわけではないけど、それはハルカの生活ぶりを見ていてもなんとなく想像はつく。

 また、毎日LINEをするようになった今となっては、彼女の経済状況については痛いほど知っている。過去のこともあってか、彼女も体が弱く、よく体調を崩して学校を欠席したりしているが、ろくに病院にもいけていないらしい。これもみんなには内緒にしてって言われているんだけど、うちの学校では基本禁止となっているバイトを、ハルカはしている。もちろん学校に許可を取ってのことだ。校則にも特別な事情があって、学校側に許可を取ればやってもいいと書いてある。


 僕は、単純にハルカのことが可哀想でならなかった。僕はお父さんともお母さんとも一緒に暮らしているし、弟も合わせて家族全員円満な関係の元に暮らすことができている。特にお金に困っていることもなく、他の友達ともなんの問題もない。文句のない生活だった。皮肉にもハルカとは、真逆の生活をしているとさえ言える。

 その不遇に加えて、ハルカは精神があまり安定していなく、体調を崩しやすかった。

 だから、学校には来るけど途中で保健室に行って、結局早退なんてことも多々あった。

 これらの内情についてハルカが僕に初めて話してくれたのは、確か僕たちが高一の頃だった。


 その日はテスト期間で部活はない。僕は物理の先生にすこし質問をしてから帰ったので、ボッチでの下校が確定していた。そしたら、たまたま下駄箱でハルカと会って、最寄り駅まで一緒に帰ることになった。って言っても最寄り駅まで大した道のりないんだけどね。ハルカは、体調が悪くてトイレにこもってたみたい。二人で並んで帰ったんだけど、どうもハルカの顔色が悪くて、若干猫背で、かなり体調が悪いというのはすぐに感知できた。それじゃ家にたどり着けないでしょ、ってほどだったから。だから一応声をかけてみた「荷物持とうか?」って。

 いつもなら、ダイジョブありがとうって断られるんだけど、その時は違った。持って、って言われた。その声からも、相当辛いのが伝わってきた。シンプルに、このまま一人で家に帰れるのかが不安だった。僕にはどうすることができるんだろう、そう考えに考えて、勇気を出していってみることにした、「家までついていってあげようか。」って。

 最初は断られたけど、その状態でどうやって帰るのって聞いたら、じゃあついてきてって言われた。頼りにされたのが結構嬉しかった。電車で隣の席に座るのってこんなにも距離が近くなるんだなって思ったのを今でも覚えている。僕はドキドキしてた、これが青春かってね。

 ハルカは終始ダラっとしてた、いかにも体調が悪いですって感じで。こっちに寄りかかってきてくれないかなぁとか思っていたけどそんな願いが叶うことは流石になかったね。まぁ、とりあえずハルカの最寄り駅まで一緒にいって、そこから少し歩いてハルカの家の前まで送ってあげた。もちろん、荷物は持ってあげたし、僕が車道側を歩くとか最低限の気遣いはしたよ。ハルカと別れてからはもう一回駅まで戻って、そこから僕の最寄り駅まで電車で行った。この時初めて気がついたんだけど、そこまで遠くなかった、電車だと十五分ちょっとかな。

 その帰りの電車の中でハルカからLINEが来たんだ、ありがとうって言葉が添えられた長文がね。


 そこには常日頃あんなに体調が不安定な理由、とか家庭の事情、今後どうして欲しいかとかがびっしりと書かれていた。全部読むのに、七分くらいかかったかな。今日一緒に帰ってくれて嬉しかったとも書いてあって、それは僕にとって一番言われて喜ばしい言葉だった。話してくれてありがとう、僕はそう繰り返して、その長文を丁寧に読んでいった。

 それからというもの、ハルカは、僕には素直に話してくれたし、疑問に思ったことは聞けば答えてくれるようになっている。

 好きな人がこうやって自分のことを頼ってくれているのを実感するのって、なんかすごいドキドキするよね。僕もまぁ、これで少し調子に乗ってしまった節はあるかもしれない。高一の頃はハルカと話すときは常に彼女の体調や精神状況を気にしている感じを出していた。今思えば、絶対迷惑だっただろうなと思ってる。

 それから少し僕とハルカとの距離が縮まったような気がしている。こう思っていたのは僕だけではないっぽかった。仲がいい男子からは「お前、黒澤と何かあんのか?」と聞かれ始めるようになったのもここら辺から。黒澤っていうのはハルカのことね、黒澤ハルカ。ちなみに、僕が知っている限り彼女のことをハルカって呼んでいる男子は僕しかいない。

 今、ハルカとおんなじクラスなんだけど、最近はクラスの中でも僕とハルカに関する噂が出てくるようになったみたい。本人の前では言わないようにしているんだろうから、あんまり聞きはしないんだけど、それでもなんとなく察せるレベルまでは来ている。やっぱり、僕もハルカのことが常に心配でよく声をかけに行ってるし、ハルカも、自分で言うのも恥ずかしいけど、授業のことでも行事のことでもわからないことがあったらとりあえず僕に聞きにくるって感じで、僕のことを頼ってくれているようなので、当然の結果といえば当然の結果だったのかもしれない。

 そして、僕は実際にハルカのことが好きだったもんだから、ちょっとそう言うのは嬉しかった。もちろん、聞かれた時はサラッと否定したよ、「別に何にもねーよ」って。内心はにやけてたけどね。

 でも、このままでは少し不満足だった。二人で一緒にどこかに遊びにいってみたいなぁ、とはずっと思っていた。でも、ハルカは多分お金に余裕がないから断られる可能性が極めて高い、そう思うとなかなか勇気が出なかった。もし仮にオッケーしてくれたとしても、言い方が悪いかもしれないけど、なけなしのお金を使わせてしまっている気がしてなんか申し訳ない。僕が払っても全然いいんだけど、多分ハルカは、それは申し訳ないって言って断る、そういう性格だからね。だから、誘うとしたらお金がかからないところかなぁ、と思っていたけどなかなか思い浮かばなかった。


 そんな中、僕はハルカに映画に誘われたんだ。LINEで、見に行きたい映画があるから一緒に行かない?って来たのを見た時、僕は自分の目を疑ったよ。いや今でも驚いてたりする。

 僕の答えはもちろんオッケー。テンションマックスで、いいよ一緒に行こう!って返した。実際は五、六個のびっくりマークをつけてやった。

 もうそれからずっとテンションマックスだよ。二週間後の日曜日に一緒に観に行くことに決まったのはそれからすぐだったよ。当日どんな服装で行くのかは、ずっと考え中。

 そして僕は決めた、その映画を見終わったら告白しようって。ずっと告白したいなって気持ちはあったんだよね、だけどなかなか踏み出せなくてね、ちょっと自分の中でモヤモヤしてたんだよね。


 正直に言う、勝率は結構高いと思うよ・・・。ハルカが僕に恋愛感情を抱いているかはわからない、けど少なくともいい印象は持っているはずだ。だって、ハルカが話しかける人といえば僕だし、毎日LINEだってしてる。告れば付き合ってくれるんじゃないかなって気持ちは、ずっとどこかにあった。

 でも、一方でまだ少し告るのには早いかなって気持ちも心の隅にあった。初めて遊ぶ時に告白って、今冷静に考えると早いかな。いやぁ考え始めたら少し早い気もしてきたな。映画にいった後にまた今度遊ぶ約束をして、そして次回告る、っていうのもありだなぁと思い始めてきてしまった。でも男に二言はないもんね、余計なことは考えずに告白することにするよ。告白の言葉はもう決めてるんだよね。余計なことは言わないで、率直に気持ちを伝えようと思う、ずっと好きだったって、映画に誘われてめちゃくちゃ嬉しかったって、誘われた瞬間からこの日に告白しようって決めてたって。初めての告白だから、今から心臓がバクバクだった。けど、案外僕って肝座ってるし、本番にチキることはないだろうと勝手に思っている。僕がハルカに告白しているシチュエーションを想像すると、とてもワクワクして、次の瞬間には緊張なんて忘れていた。


 告ると決めた次の日から、ハルカへの接し方には少し困った。なるべく、というか極力以前と変わらないようにしようと努力した。多分、態度には何も表れていなかったんじゃないかな。でも内心はマジでバックバクだった。顔が真っ赤になっている気がしたよ、多分なってなかったとは思うけど。

 LINEを送ってきた次の日以降も、ハルカの僕に対する接し方は一見変わらなかった。ハルカも内心照れていたりするのかな、なぁんて考えながら話してたよ。毎日、学校では少なくとも一回は話してたと思うな。まだ告白してすらいないのに、すっごい幸せな時間だった。





 時は流れ、遂に明日告白します。なんだかんだ緊張してきました。

 多分、大丈夫だと思う。多分・・・。んー、なんか自信が無くなってきた。いや、ダイジョブだと思うんだけどな・・・。もう、迷っていても仕方がないから、大丈夫だと、自分に言い聞かせることにしよう。うん、ダイジョブだ。・・・、緊張する。

 明日は、どんなシチュエーションで告白しようか。多分、時間的に、映画を見た後にどこか探してご飯を食べるだろうから、その後になるのかなぁ。ここ二週間死ぬ気で考えたんだけど、映画館の近くに川があって、橋があるから、そこで告白する予定。少し、ロマンを求めてみたけど、他のどのアイデアよりも、これが一番普通に見えた。橋の真ん中あたりで、静かにコクる、これでいくことに、今再度決めた。あとは何て言うかだよね。これも色々に色々と考えた。考えた結果、やはり何隠さず素直に、真っ直ぐに正直に気持ちを伝えることにした。まず、必須なのは「ずっと大好きでした。」、そして「今も大好きです。」、そして「僕と付き合ってください。」、この3つだな。やっぱり、「ずっと大好きだった。」っていうのは強調したい。逆に、具体的な思い出話はしないことに決めた。なんか、想像するとちょっと気持ち悪いから。

 あとは、その場で思いついた気持ちを言っていこうと思う。でも、あんまり喋りすぎないようにしないとね。その後、ハルカが喋りにくくなっちゃうから。だから、あんまり熱くなりすぎないようにもしないと。これは、自信ないけど、これは本番の僕にかけるわ、頼むよ未来の僕。

 着ていく洋服は何にしよう。お互い制服姿しか見たことがないから、ハルカがどんな服を着てくるのか、想像もつかないな。あんまり大人っぽい服を着てくるイメージはないんだけど、そういう人に限って大人っぽい服を着てくるとか、そんなようなことを聞いたことがあるんだよな。どうなんだろう。気になるな、どんな服装で来るのか。どんな服装できても、きっと可愛いんだろうな。

 それはそうとして、僕は考えた結果そこまで目立たない服で行くことにする。自分自身、あんまり派手な服が似合うようなタイプではないとおもっているし、質素くらいがちょうどいいような気がする。僕、そう言う感じの存在だしね。普通のジーパンに、暗めのブルーのパーカ、これにした。僕が持っている服の中で、この組み合わせが一番しっくりきたんだ。

 もう、イメトレも何回もした。とりあえず、寝る前に一回は毎日欠かさずしたし、授業中もほとんどイメトレしてた。だから、授業の内容なんて、ほとんど頭に入っていない。でも、そんなの気にしていない。まず、食事が終わったら、

「ちょっと話したいことがあるからこっち来て。」

って言って、橋の方まで連れていく。さりげなくね、ここで慌てたりしない。そいで、位置についたら焦らさずにコクる。

 よし、もう完璧。最後にもう一回頭の中でハルカに告って今日のところは寝ることにしよう。






 これは約二十年前の話だった。当時は勝利を確信していた僕だったが、なんとこの後振られることとなる。なんか違う気がする、今私にはそんな余裕はない、ユウスケとはまだ親友でいたいって言われたの、今でも覚えている。

 でもそんな過去があってももう僕にはどうでもいい。だって、今僕の肩の上には、ハルカのお腹から生まれてきた子が乗っているんだから。

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