第2話
ライブにいった翌日、僕は早速自分のやりたいことをみつけようと考えていた。
でも実際に自分のやりたいことを考えてみると全く思いつかなかった。
それはそうだろう。今まで親に言われた通り勉強しかやってこなかった男が急にやりたいことを見つけようと思ったところで簡単にみつかるわけがない。
家で考えていても何も思いつかないと思い、昨日みたいに外を歩いてみることにした。
玄関を開けて外に出るとアパートの上から女性がギターを持って降りてきた。
なんとなくそのギターをもっている女性が昨日の女性に見えて後ろをついていった・
一瞬これってストーカーとか思われるのかなとは思っただけだけど、なんとなく興味があった。
すると家の近くの川のところに腰を下ろして少しするとギターを出して演奏し始めて歌い始めた。
アパートの上から降りてきた後ろ姿と昨日チラシをもらった後の後ろ姿がなんとなく似ていたからついてきたけど声を聴いて確信を持った。
それは昨日のボーカルの人だった。
「君は。。。」
「あっ」
そんなことを考えていると、女性は僕に気づいたいらしく演奏をやめてこちらをみていた。
やばい。ずっとみていて気持ち悪いって思われたかもしれないと思っていると
「昨日の」
「はい。昨日ライブにいかせてもらってすごくよかったです」
「そっか。きてくれたんだ。ありがとう」
「ライブに初めて行ったんですが、今まで経験したことがない気持ちになりました」
「それはよかった」
「。。。。」
やばいコミュニケーション能力が低い男としては会話が
そんなことを考えているとまたギターを弾き始めた
僕は自然と座ってその演奏を聴いていた
あぁやっぱりこの人の歌はいい。
「どうだった?」
歌い終わると感想を聞いてきた
「すごくよかったです。僕は音楽素人なのでどこがいいといわれたら細かくは応えれませんが聴いていて頑張ろうと思えます」
「君は真面目だな」
「僕は本当に面白みもない普通の男なんです」
「私も同じだよ」
「いやお姉さんは素敵な歌と演奏があるじゃないですか?」
「褒めすぎだ。昨日もいったけど、私は特にとりえのない女だったけど。周りの魅力的な友人のな中にいると自分だけ面白みがないなとずっと思っていたんだ」
「でも音楽に出会えた?」
「音楽に出会えたといえば聞こえはいいが、どちらかというと音楽に逃げたが正しい」
お姉さんの口から出てきた言葉は僕の予想外の「音楽に逃げた」だった。
「私は親に言われたように生きてきた。でも次第にそんな自分に嫌気がさしてきて、たまたま家にギターがあったから弾いてみると思った以上に楽しくて、気づけば親が家にいないときには動画を見ながらギターの練習をしていたよ。だから音楽は私にとっての「逃げ場所」だったんだと思う」
まさかこの女性が僕と同じような悩みをもっているとは思いもしなかった
「僕も同じです。高校を卒業するまで親の言われた通りに生きてきて、友達と遊んだ経験もないし、友達と呼べるような仲のいい人もいないと思います。そんな自分を変えたくて無理やり大学は県外を選んで上京してきたんだ」
「そっか。君も私と似たような境遇だったんだね」
「はい。でも実際に上京してきたものの、特にやりたいことも見つけることもできないし親元を離れる前と今で変わってないんではないかと不安になります」
「そんなもんだよ。結局自分がないと何もできないのが現実なんだよ」
「お姉さんはどうしてバンドをやっているんですか?」
「一緒に頑張る仲間ができたからかな」
「仲間ですか?」
仲間という言葉を出した時のお姉さんの顔は少し微笑んでいるような気がした。
「さっきもいったけど自分がないと何もできないんだよ。でも私は幸運にも一緒に進んでくれる仲間ができた。ベースの子やドラムの子。そしてライブにはでないけど一緒に歌詞を書いてくれる子もいる。他にも応援してくれる友人がいる。人数でみれば決して多くはないけど、きっとみんながいたからバンドは私のやりたいことになったんだと思う。私だけだったらただ逃げ場所でしかなかったバンドが期待や応援してくれる人の喜んだ顔をみたくなって、それが私のやりたいことになったんだと思う」
「素敵です」
僕は素直に思ったことを口にしていた
「なんか恥ずかしいな」
「全然恥ずかしくないです。僕から見たらお姉さんはやりたいことに進むことができていて憧れます」
「そういってくれるなら私も恥ずかしくも語ったかいがあるかもな」
お姉さんはまた少し笑った
これがギャップなのかもしれないけど、普段クールな表情の人が少し微笑むとそれだけでぐっときてしまうものがある。
年齢=彼女いない歴の僕からしたらこの人は単純に眩しかった
「私からできるアドバイスは、人と関わって自分にない考えを知ることだと思う」
「自分にない考え」
「君も私も親のレールに敷かれた道を通ってきたら視野は狭くなっていると思う。でも私の場合視野を広げてくれた友人たちがいた。そんな人たちに君も出会えるといいなって私は思う」
「言っていることわかります」
「それに、親に敷かれたレールは今の段階で途切れてしまっているから、ここから先のレールは自分で進んでいくんだと思う。逆に言えば今まで自分の進む道に意志はなかったけど、これからは自分の意志で進まないといけない。誰も責任は取ってくれない。全部が自己責任になる。でもそれが楽しんだよ」
お姉さんが言っていることは僕の心の奥に響いたような気がした。
言われたように僕の今までの人生に僕の意志は薄かった。
でもこうやって上京して大学にでてきたものの、何も変わることができていない。
これはまぎれもなく誰のせいでもなく自分の責任である。
それを今再確認したような気がした。
「君は歌は歌ったりするかい?」
お姉さんは突然そんなことをいってきた
「いや、カラオケとかはいったことがないです。でもピアノしたりしていたので音感はあるほうかなと思います」
昔塾と並行してピアノも習っていたのもあり、ある程度音程をとることに自信はあったし、カラオケにはいっていないけど歌は家で歌うことはあった
「別に下手でもいいさ。せっかくの縁だ。私がギターを弾くから一緒に歌わないかい?」
「わかりました」
「曲は何がいい?」
「ではRADWIMPSの25個目の染色体でどうですか?」
僕は自分が昔よく聞いていた曲を選択した。
RADWIMPSは僕の青春の思い出といってもいい。
勉強しているときにきいていたし、特に昔の曲は一人で良く歌っていた
「いいね。私もその歌は好きだよ」
そういってお姉さんはギターを弾き始めた
僕はそれに合わせて歌った
最初は照れくさかったけど、途中から照れはなくなり外で大声で歌っていた。
最後の歌詞を歌い終えると
「。。。。。」
僕たちの空間には沈黙がうまれる
「す、すいません。全然上手ではないのに調子乗りました」
「いや、ちょっと驚いただけで、君歌がすごく上手だよ。しかも英語の歌詞を歌う時のイントネーションとかすごく聞きやすかった」
「はぁ。英語は英会話教室に通っていたのでそこでは習っていたからですかね」
「そっか。私がいっても説得力はないとおもうけど、その音感と英語の発音は君の強みだと思うよ」
「音感と英語の発音」
それは僕が今まで自分の意志でやりたいと思っていたものではなくて、親にさせられていたものだった。
でも自分が小さい時から当たり前のようにやってきたことが自分の強みになるなんて考えたこともなかった。
それからお姉さんと少し話していると、家が同じアパートの上と下ということが判明した。まぁ上から降りてきたところをみていたから薄々はそうなのかなと思ってはいたけど。
「またライブいきます」
「わかった。君のことも応援している」
「はい。頑張ります」
お姉さんと別れて家に入った僕の中のモヤモヤはすでになくなっていた
単純と言われればそうかもしれないが、お姉さんに言われた「音感と英語の発音」
もう少し考えてみようかな。
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