普通の僕がたまたま出会ったバンドのボーカルに背中を押された話
Yuu
第1話
「あんた大学にはいっときなさい」
「わかっているよ」
親からこういわれるのは何回目だろう。
数えきれないほどいわれてきたから自分の中でも大学に進学するのが当たり前だと思い生きてきた。
小学生の時から塾に通わされてみんながゲームして遊ぼうと訳しているときも
「ごめん今日は塾だから」といって断り続けていたらいつの間にか誘われなくなっていた。
それを親にいうと
「ゲームより勉強しておく方が将来必ず役に立つから」
「ゲームは一人でもできるしいつでもできるだろう。でも勉強は今しておかないといけないんだ」
小学生の子供にとって親の言うことは絶対的に正しくて遊ぶことよりも勉強しておく方がいいんだと思って小学生生活を送った。
それは中学生になるとエスカレートしていき、気づけば週に5日は塾に通う毎日夏休みは夏期講習で冬休みは冬期講習に当たり前のように申し込まていた。
高校は偏差値の高い進学校に受験することが先生と両親の間に勝手に決められていた。そこに僕の意見はなかった。
ある意味「洗脳」みたいになっていたんだと思う。
偏差値の高い高校受験の合格して高校も中学みたいに勉強しかせずに大学に進学した。
親からは反対されたがなんとか親を説得して大学では一人暮らしを始めることができた。
子離れができない親からしたら僕が一人暮らしをするのは不安でしょうがないらしく、大学に入ってから毎日連絡ができている。
一応返信はしているが、離れていてやっと気づけたことだが
うちの両親は過保護と強要がすごいことが再確認した。
今更気づいても遅いといわれれば確かにそうかもしれない。
でも実際にそこにいたらわからないのが怖いところだ。
そういった人生を送ってきた代償で人よりも少しは勉強はできるかもしれないが、勉強ばかりやってきたせいで人とのコミュニケーション能力の弱さや運動なんて体育以外でほとんどしてきていないから平均以下でしかない。
勉強ができたとしても他の能力が低いと僕という人間は極めて「普通」か「普通よりも下」でしかないんだと思う。
それを大学に入って実感していた。
まず友達の作り方がわからない。
高校までは地元の同級生も何人かいたから話すことはあったが
大学は県外を選んだのもあり、知り合いは一人もいない。
だから自分から話しかけないと友達なんて作れるわけがないんだが、先ほどもいったように今までロクにコミュニケーションをとってきていないから友達の作り方がわからない。
大学の敷地を歩いてると
部活動で汗を流している人たちがいて、友達と楽しそうに話している人がいる。
入学式の日にはサークルの勧誘がたくさんきていたが、特にやりたいことがあるわけではなかったからどこにも入らなかった。
毎日大学に通って講義を受けて家に帰る生活を繰り返していた。
でも今日は午前中で講義が終わり昼から時間があったから、いつもは立ち寄らない駅で電車を降りた。
いつもと違う景色、いつもと違う賑わい、いつもと違う人。少し違う駅で降りるだけで日常とは全く違うのが新鮮だなと思った。
「これよかったら」
「僕?」
「はい」
街の中を歩いていると急に女性に話しかけられた
女性はチラシを配っていた」
「これは?」
そこに書かれていたのはライブチラシだった
「今日の16時からそこのライブハウスでライブするんでよかったら遊びにきてください。チケットは2000円でドリンク付きです」
「はぁ」
「では」
すごく綺麗な人だなと思った
今日は予定もないし、こんなタイミングでもないとライブハウスなんて絶対に立ち寄らないと思って、16時にライブハウスに足を運んだ。
思っていたよりも人は多くて僕は後ろの方に立っていた
16時半になるとライブが始まり、思った以上の大きな音とともに最初のバンドの演奏が始まった。
正直最初は大音量の演奏にびびってしまったが、1曲終わったころには大音量のことは忘れて楽しんでいた。
「ライブって楽しい」
今までこういったものにまったく触れてこなかった人間としては、ライブはかなりのインパクトがあり最初の居心地の悪さは忘れていた。
「ありがとうございました。この後の楽しんでください」
最初のバンドの演奏が終わった。
だいたい20分~30分ぐらいの感覚でバンドが変わるようだ。
今日のライブはあくまでアマチュアのライブで大学のサークルであったり高校生バンドであったりレベルは様々なイベントというよのがパンフレットに書かれていた。
観ている人も演奏している人もとても楽しそうで自分のやりたいことをやっていて素敵だなと思った。
「続いては今日のメインバンド○○○○〇です」
MCの人がそういうと観客は今日一番のボルテージになった
どんなバンドがでてくるのだろうと思っていると
「よろしくお願いします」
ボーカルの人の一言で一気に演奏が始まった
演奏が始まると素人でもすぐにわかった
ボーカルのギター・ベース・ドラムのどのレベルをみても他と頭一つ抜けているうまさがあった。
そして何よりもボーカルの女性の歌のレベルが高すぎた
「あれ、あの人・・・」
ライトがボーカルに向いて顔が見えるとその人はさっき僕にチラシをくれた綺麗な女性だった
「兄ちゃん、初めてこのバンドみるのか?」
隣の人が急に話しかけてきた
「はい」
「ならよくみとけ、俺もライブハウスに長くいるがこのバンドはもしかするともっと有名になるかもしれないぞ。ボーカルの歌唱力、そしてそれを支えるベースとドラム。技術はまだまだこれからだろうが、それぞれが本当に自分のやりたいことに向かって走っているようなバンドだ。覚えておいて損はないと思うぜ」
隣のおじちゃんはこのバンドについて熱く語ってくれた。
でも確かに絶賛されるだけの魅力があると思う。
僕は最初の曲をきいただけで夢中になってしまっている
曲が終わるとボーカルの女性が話し出す
「今日はこのライブハウスに足を運んでいただきありがとうございます。私たちのことも一緒に覚えて帰ってもらえたら嬉しいです。私たちは見ての通り3人でバンドをしています。実力も知名度もまだまだですが、プロを目指して進んでいきます」
拍手が起こる
「私は高校時代なんのとりえもありませんでした。要するに「普通」でした。周りを見ると魅力的な人がたくさんいて、その中に自分だけ取り残されているような毎日を送っていたんだと思います。でも現実逃避に音楽を使って路上で歌っていると、私の歌を聞いたクラスメイトが涙を流してくれました。それをみて自分の中で私の歌で誰かの何かになれるのならと思いこの道を選びました。親には大反対されて今は連絡も取っていない状況ですが、私は今の人生を後悔はしていません。みなさんの中にも今の自分の状況に満足していなくて一歩踏み出したいけど踏み出せていない人がいると思います。そんな方の背中を押すことができれば今日私たちがライブをする意味があるのかなと思います。ぜひ最後まで楽しんでください」
ボーカルの人のMCを聞いて自分の中の何かが晴れたような気持になった。
親に敷かれたレールをただただ歩くのではなく、自分の意志で進む道を選ぶ。
この人の歌で僕は確実に背中を押された。
綺麗ごとかもしれないけど、今日この日このバンドに出会えたことは僕にとって運命の日であり1歩踏み出した日。
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