第270話
*騒乱の翌日、ヨウシ市街
商店の立ち並ぶ通りを三人の男たちが歩いて来る。
商店主が声をかける。
「おーいポール!」
「おお、おっちゃん」
「聞いたぜ、大変だったんだってなあ。逃げちまったんだって?」
「まあ、大したことじゃないさー」
「大した事じゃなくはねーだろ。相変わらずだなー」
「はっはっはっ」
小柄なアクスはポールの後ろにいた。振り返り、商店主の顔を盗み見た。
「こっちは問題ないみたいだね」
「街の奴らはな」
長身のジムが横顔で答える。機嫌はよくないようだ。
そこへ早速、不機嫌の原因が現れる。通りの向こうから偉丈夫そうな男がやってくる。
「よお!」
ポールが笑顔で呼びかけたが、声を掛けられた者は、なにか歯切れが悪かった。
「…ああ、おう」
用がある風を装い、そそくさと行ってしまった。
ジムが大きな口を開く。
「やっぱ冒険者はだめじゃねーか。ありゃ疑われてんぜ!」
「疑われているというか、確信してる感じだったねー」
「そうだなー。あいつは冒険者だったなー」
ジムは、長い髪が顔にかかるのをうっとうしげに払う。
「チッ、やっぱり問題はあのギルマスだぜ。街の奴らはうまくいってるのに。早く始末した方がいいんじゃねーか。やってらんねーよ。汚ねーもん見るような目を向けやがって」
「今は騒ぎを起こさない方がいいさー、暫くしたら変わるだろーよ」
ポールは、努めてのんびりした口調を保っていたが内心は穏やかじゃなかった。
そんな匂いを感じとったのか、アクスが二人の肩をポンポンと叩く。
「大丈夫、大丈夫。きっと何とかなるさ」
「アクスは意外と肝ふてーよな」
「ビビった方の負けだ。マスターがおっしゃっていたじゃないか。堂々とした方を信じる。俺たちは悪い事なんかしてない。
だって、この市の総督様がそういってるんだよ?」
商店から妙齢の女が出てきた。三人と出くわした形になる。
「あっ、サニーちゃん元気?」
「アクス…」
「えっどうかした?」
「噂で聞いたの、本当に悪いのはあんた達じゃないかって。だってライムちゃんが悪いことするなんて、私は信じられないよ」
「それなんだよね。僕だって信じられないよ」
女は警戒の色を浮かべていた顔を更に険しくした。
「…あんた達が警吏に訴えたんでしょ?」
「僕らはこういったんだよ。なんか操られていたっぽいって」
「操られて?」
「普段とは二人とも何か違かった。力だって強かったし、彼女たちは誰かに乗り移られていたんじゃないかな」
「そんな事が…」
「未知のモンスターに乗っ取られていたんじゃないかな。だって僕はともかく、あの子にポールが敵わなかったんだよ。信じられないだろ?」
サニーはポールに目を向ける。彼は朱色の頭巾の偉丈夫だ。確認するまでもない屈強そうな体つきをしている。隣にライムを並べて見立てているのだろう。思わず頷いてしまう。
「それは確かに…」
「僕はそう言ったんだけどね…。何の証明もできないからさ…僕らは今、その原因を探ってるんだ。彼女たちはきっと無実さ」
「そうだったんだ…」
サニーは警戒の色を解いた。
「今頃どうしているのかな。取り憑かれている時のことは覚えていないと思うから、僕らを憎んでるかもしれない。追い詰められて変な事しなきゃ…いいけど」
「それじゃ…憑かれている時は、危ないってことだよね?」
「そうだね、無警戒には近づかない方が良いね」
サニーは新たな心配の種を得たが、アクス達には頑張って欲しいと笑顔を向け、手を振り去っていった。
「今の話、良いなー。流石だーアクス」
「ライムが悪いわけないっていうなら、悪く言わなきゃいいのさ」
「でも、今の言い草だとよ、警吏は怒るんじゃねーのか」
「そんなの知ったこっちゃないさ」
「だなー」
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