第267話
まずはガーから。光り揺らめく水盤に右手を差し入れる。
「そこ、浮かびましたね」
イラーザが前屈みになって、鑑定盤の側面に文字が浮かぶのを確認した。
正面にいたアリアーデが小さな文字を読み取る。幾つか現れている。
「狩猟、追跡、潜在、観察……狩人ということだな」
「はー、初めて見ました。職業が出るわけじゃないんですね」
「…いや、普通は職業が出るものだ。イラーザも読めるのか」
「単語くらいなら…」
「ガーやったね!狩人だって!」
ライムが声を上げる。二人は肩がつくくらい寄り添っている。そんな大声だとうるさいだろう。ガーの犬耳が動く。
狩人が良いのかどうか実はわかってないだろうに。ま、冒険者の才としては悪くはない。
しかし、俺も知らなかったな。てっきり職業が出るものと思っていた。昔から職業をそれしかないように決めつけるのは、おかしいとは思っていた。
わかったぞ。狩猟、追跡、潜在…それらが得意だから狩人と判断する。
それで、才は狩人ってことになるわけだ。
追跡なんて仕事はないもんな。斥候か?
「ここの別枠は何だろうか」
「恩恵じゃないですか。あれ、他にも色々出ていますね」
「頑健、私と一緒だな」
「やるじゃないかガー。おまえ恩恵持ちみたいだぞ!」
「恩恵…頑健って?」
「頑丈で滅多に壊れないって事だな」
「それは強い身体ってこと?」
「そういう事だ」
これがなかったら、さっきのだってなおらなかったかも知れんぞ。
「嬉しい…」
ガーは顎に手を当て微笑む。頬が赤らんでいた。
だからかわいいって。
「アリアーデには不似合いな恩恵ですね」
「よく、笑われたものだ」
切ないねえ。アリアーデが笑われるなんてねえ。でも、人にはそういうのがないとね。
てか…いやいや、弱点じゃないな。
アリアーデの肌が、凄まじく綺麗な原因ってそれなんじゃ。ガーの肌も綺麗だし。
肌が綺麗な人って頑丈なんだ。不思議な感じだ。
世間の皆さん、笑う所じゃないな。羨むところだ。
俺は水盤を見つめて、目をキラキラさせてるライムを見る。
緑の娘とか言われていたんだよな。俺には子供にしか見えないが、光る水面に照らされ、揺らめきが映った顔はそれなりに神々しかった。
「ライムもやってみろよ」
「ガー、ごめんね。私がすごいの出して、かすんじゃっても怒らないでね?」
てへぺろの様相を見せているが、ライム、そういうのフラグだぞ。
「才は…鑑定士かな」
「え、うそ。私、植物鑑定士って言われたのに。変わったのかな?」
「いや、君のは難しいな。鑑定、看破、記憶、治療、想図、選別もある。恩恵は鑑定眼、遠見、魔力」
「えっえっえっ!」
「すげーなライム。なんだそりゃ。他国が欲しがるわけだぜ」
「というか、この鑑定盤は凄いですね。多分、市中に出回ってる奴はここまで細部は出ないんですよ。代表的なのがポコッと出るだけです」
「魔力って恩恵だったのか?」
「この盤の表示では、恩恵の部分に出ているな」
アリアーデは淡々と述べる。こういう任務は彼女に実に適任だ。感情が入らないのでこちらも冷静でいられる気がする。
「姉さま!わたしすごいの。魔法使えるの?治療まで?」
はしゃぐライム。諸手を振り、膝を曲げて揺らしている。踊り出しそうなポーズだ。
イラーザはいつもの悩み深い顔を彼女に向ける。ん?少し哀れみが入っているか?
「そうですね、すごいですよ。特にあなたの魔量が…」
「魔量が?」
「魔量…マジックポイントというのは、魔法を行使するのに必要な容量です。
例えばファイアを放つのに五必要とするとして、マジックポイントが十の人は、二回ファイアを放てます。無理すればですが…」
「はい?」
「あなたはそれが、三しかないんです。だからこの祠、あなたには疲れたでしょう?
微々たるものなのですが、ここは人から魔力をとって稼働しています。三十分で一取られる感じです。三しかないあなたはマジックポイントの半分近くを奪われます。
ちなみにゼロになると気絶しますが、ポイントの自然回復が、十分で一ポイントぐらいでしょうか。おかげで上手く回せましたが、疲れたでしょう?
三しかないので、治癒魔法も使えません。ちなみに私は三百程あります」
イラーザはアリアーデのように淡々と述べた。
ちなみに俺のマジックポイントは七十万程あると思う。こういうのは具体的な数値が体内に現れてるわけではない。使用してみての経験則から、そのくらいあると考えるものだ。
だが、イラーザのあの様子から見ると、この鑑定盤はマジックポイントも数値化するのだろう。後で俺も調べよ。
「え?」
「魔量が足りなくて、治療魔法を行使できないんです」
「ええ?」
「だから才は、植物鑑定士と判定されたのでしょう」
「ええ…」
「…魔法使いより貴重なので良かったですね」
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