第266話
それから、ガーの手の惨状を見て一同は絶句したんだ。
「馬鹿野郎!なにやってんだよーー!」
俺は初めて怒ったよ。
「隠すとこじゃねーだろ!」
子供二人は肩を竦める。
剣を刺して、止まった心臓を直すより大変だった。
指の肉の部分がほとんどなくなっていて、俺の本気の治癒でも上手く治せなかった。
「まだ、酸とか、毒があるのではないか?」
アリアーデの言葉にマルーン邸にあった薬品庫から毒消しを取り出してつかった。
それでもうまく復活とならない。
きっと時間が経ちすぎたんだ。俺の治癒は実は初級だ。欠損を補填する力はない。
マルーン邸にあったハイポーションを用い、それから俺の魔法を重ねる。彼の左手をよく見てイメージをした。血管、神経、筋肉、腱、皮下組織、表皮…。
超高級アイテムのハイポーションを全て使い、ようやくガーの手は元通りとなった。
治った途端に、イラーザの切れのいい罵詈雑言が二人に浴びせられる。
全人格を否定するところまで行ったところで、アリアーデがなだめ、説教は終了した。
結局、ガーの治療には小一時間かかった。俺たちはその間、水の広間に居座っていた。
俺たちはくたびれて床に身体を投げ出した。ガーとライムを中心において、暫く天井に映る水の煌めきを見ていた。
奇麗だ。
この場所はアイテムを取り出したりするのに都合がよかった。邪魔も入って来ない。どうやらモンスターは扉を開けられないらしい。
やっぱり欲しい。エタニティリザーブを刻む場所に出来ないだろうか。
横向きに寝転んで目を閉じたガーを見ながら、治療魔法について改めて考える。
万全だと思っていた俺の魔法には穴がある。
はっきりとはわからないのだが、怪我したばかりの頃は体の方が覚えていて、戻ろうとするのではないだろうか。時間が経つと個々の繋がりを体の方が忘れてしまう。
上級の治癒呪文は、それを補填する力があるのではないか……。
俺は、寝落ちしていたようだ。いつの間にか、ガーが俺の横で寝ている。
横向きで、両手を顔のそばに寄せ、犬耳をぴくつかせながら静かな寝息を立てる。睫毛が長い。どう見ても女子だ。女子として正しい寝姿だ。
ライムは元の場所にいた。ガニ股で寝ている。見習ったらどうだ。入れ替わったらどうだ。
よく考えてみるとライムが男の子だと一番主人公っぽいかな。
バカなところが憎めないし。
首を伸ばして見てみると、四本の支柱に囲まれた鑑定盤の辺りを、アリアーデとイラーザが調べていた。
ワニがその辺で暴れたようだがダメージはないようだ。
俺は転がったまま話しかける。
「それさあ、時々しか現れないって言ってたぞ。運がいいのかな二人は?」
「違うな、ここに書いてある。魔力を持つものが訪れなければ、仕組みは開かれないと」
はあ、なるほど。魔力のない奴が来ても、ただの池だったりするのかな?
「あいつら、それが読めなかったと…」
「これは古代語だ。読めなくてもしょうがない」
俺の声で目覚めたのか、ガーが身を起こす。ライムも起きたようだ。
「ライム、読めたのか?」
「…読めなかった。でもガーは…なんか出てたよ」
ライムは転がったままだ。ガニ股も直していない。お父さん代わりとして注意するべきなのか。待てよ、セクハラ発言になるな。やめておこう。
「じゃあ、お楽しみはまだなんだな?」
俺は立ち上がって、ガーとライムに手を伸ばした。
飛び石の道を、二人は跳ねるように渡る。子供が二人できたようだ。悪くない。
二人は台座に据えられた鑑定盤を覗き込む。湧き出る水が、美しい水紋を作っていた。
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