第263話


 俺たちは、階段の終わりの部屋にたどり着いた。


 赤く染まる小部屋で、それを眺めていた。

 魔物のような仮面が壁に掲げられていて、その目が赤く光っている。


 結構、恰好いい仮面だな。


 こういうの、ロープレだと取れないんだが、どうだろう。

 俺は手を伸ばそうとする。



「トキオ、やめておけ。神聖な物かもしれん。何でも取ろうとするな」


 どうしてアリアーデは、俺がパクろうとしたのがわかったんだろう。



 ふと見ると、イラーザも首をすくめて惜しそうな顔をしている。彼女は反対側の仮面に杖を伸ばしていた。


 性質が盗賊の二人は手を引っ込める。


「…そうだね。自爆スイッチだと困るし」

「…そうですね」



「鍵かかってるかな?」


 改めてドアの方に向かう。ごついドアだ。いきなり開けようと手を伸ばすと、アリアーデに注意される。


「ちょっと待て。ドアはノックするものだろう」


「このドアを?」

「誰かが住んでるやも、知れぬだろう」


 そうだね、アリアーデ。その通りだ。

 そう言えばロープレにはノックするがコマンドに現れなかった。マナーがなってないな。


 コンコンコン。

 ドアをノックしてみる。


 ギイイ…。

 驚いたよ。ドアが自然に開いたよ。


「開いた!」


 イラーザも驚きの声を上げる。そうそう、ダンジョンで扉を見つけてノックする奴を見た事がなかった。

 もしかしたら、鍵がかかっていたあそこもノックしたら開いたのだろうか。



 驚いた。


 そこの通路の奥に、でかいワニがいたんだ。出会い頭という奴だったが、奴は後ろ向きだったので、こっちに向かって来るまでに多少の間があった。


「イラーザ!」


 珍しく杖を構えて、カッコよくスタンスを取ったイラーザが前に出る。


「闇の眷属よ、冷たく扱われた怒りを返せ!凍り付かせろ!アイスランス!」



 失敗だった。


 小さな氷粒がごまんと出たが、風の暴発を伴っていて、ワニは扉の向こうに吹き飛んで行った。俺たちも爆発的な風に巻かれて吹き飛ばされた。


 目や口に氷が入って、ゲフゲフした。

 ワニの事を忘れ、飛び散って降りかかった氷の粒を叩いて落としていた。



 靴やら服の中に入った氷が冷たくて、掻きだしている所に、ライムが泣きながら飛び込んできたんだ。そこで俺は火急の事態を知った。


 ライムのスカートは裂けて一部を失っている。どうしたんだ。エロい事されそうになっていたのか。

 誰だー、許さん!


『超速』



 俺は速攻で扉の向こうに飛び込んだ。


 ガーがワニをかわそうとして、トカゲに跳ね上げられた所だった。結構な距離があったが俺は間に合う。

 彼が五センチ地面に近づく度に二メートル以上距離を詰めた。後三十センチの所で追いついた。


 毬のように空中で回っているガーを捉まえる。


 なに、俺には止まって見える。腕と足とお腹の間に少しだけ開いた隙間に手を入れ、吹き飛ぶ勢いを極々柔らかく流し、水平方向へ逃がす。


 いきなり止めたらきっと吐くよ。

 彼女の四肢が伸び切った所で、反転させ胸に抱いた。

 宙に浮いた右手が血にまみれていた。点々と粒を作り、空中を離れていく。


 血液が粒状の球体に見える高速の世界で、ガーの目が俺を捉える。

 大きな藍色の瞳に、俺の間抜け面が映る。見えちゃいないだろうと思ったが、彼女は縋り付いて来た。


『氷塊』


 追い縋って、大口を開けてきたワニの口に特大の氷を押し込んだ。


『解除』


 口をから引き裂かれ、脊髄が砕けただろうワニは一声も上げず崩れ落ちた。



「見たかイラーザ、こうやってやるんだよ」

 追いかけて来たイラーザに振り返って言ってやった。

 

「ちきしょう!」


 ちきしょうって…口の悪い娘だね。本当に悔しそうだ。地団駄踏んでいる。魔法で俺に上を行かれるのが気に食わないのだろう。


「俺はね、あの言葉。おまえが闇の眷属言うのが悪いと思うよ。水が闇ってなんだよ。水の精が怒るだろ?」


「うるさいです!」

 オコだ。


 アリアーデが、ライムを護るようにして青い部屋に入って来た。

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