第243話


 頬を真っ赤に染めたアリアーデは言った。


「わからないものだ。全然平気だと思っていたが…やはり遠慮してくれ」



 減るものではないと思ったが、実際はそうでもなかったようだ。きっと俺が見ると減るのだろう。何しろ人に視姦といわれるくらいだからな。


 しかし、アリアーデが照れたような様は新鮮だ。

 俺は記憶に刻もうと、彼女の全てを目に収めようと走査した。



「トキオ視姦はやめろと…」


「これは視姦じゃないよ。愛でる気持ちだよ。今、俺は君を、いやらしい気持ちでは見ていない」


「そうなのか…」


 俺にとって正論だった。なんか行ける。今の彼女なら説得できると思ったのだが…。

 イラーザとライムが風呂から上がって来た。


「お待たせしました~」

「ふぉえ~」



 危なかった。

 もう少し早く出てきていたら、獣人の親子の他に、彼女らの視線も浴びる所だった。

 きっとライムに心の底から軽蔑されただろう。慎重さが足りない。気を付けよう。



 でもね、俺はもうそんな事忘れて愕然としたよ。


 イラーザは、長い黒髪を後ろに上手に巻いてて、それはそれで可愛かったよ。ウエストを紐に縛られ、仄かに主張する胸もそれなりの風合いがあって見事だったよ。


 一緒に出て来たライムも、上気してかわいさ三十パーセントアップだったよ。緑の髪の毛を脳天辺りで縛っていてパイナップルみたいだったけど。



 問題はイラーザの顔にあった。なんで鼻にちり紙、詰めてるんだ?


 血だよ。この娘、鼻血が出てるよ。



「…おい、イラーザ」

「のぼせ…ました…はぁ」



 何に?一体、何に興奮してたの君は?


 その後、俺は一人寂しく風呂に入った。そんな疑念が渦巻いて風呂を大して楽しめなかった。

 イラーザが興奮してたと思うと俺も興奮してしまう。風呂場で究極のNGだ。




 翌朝、俺は村長の家で一人目覚めた。


 女子達とは別の部屋だった。爆睡したのでいいのだが、残念だ。何故いつの間にか、一緒に寝てる展開じゃないのか?


 おかしいな。夢が一つもかなわない。無謀な高望みなのか…。世界観が違うのか。俺に邪な心があるからそういう事にならないんだろうか。

 鈍感系じゃないとだめなのか?



 俺は昼過ぎまで寝ていた。皆はとっくに生産活動を始めている。


「すみません。こんな寝坊して…」

「お休みになれたのなら良かったわ」


 村長の奥方にダイニングに案内される。彼女は村長ほど年寄りじゃない。まだしゃんとしている。ウサ耳も素敵だ。童話に出て来るような方だ。

 紅茶を入れるのとクッキーを作るのが上手そうだ。


「おはろー」

「お早う」

「よく寝ましたね」


 テーブルには、アリアーデとイラーザがいた。二人は村の視察をして帰って来た所だった。一人足りないので尋ねる。


「ライムは?」

「子供達が迎えに来て、遊びに行きました」


「そうか」


 俺たちとずっと逃亡生活じゃ、ろくに友達もできないからな。友ができたならそれは良かった。俺にはろくにいなかったけど。彼女の為に、時々遊びに来よう。


「ガーは来てた?」

「いなかったようだ」


 そうか。このまま疎遠になっちゃうのかな。小さな俺の心は沈み込んだ。



 ウオルフがドアを開け、元気良く部屋に入って来た。

「おはようございます!昨日来なかった者からも情報を集めて来ましたよ」


「ああ…すんませんね。変な事言い出して」


 そうだった。

 ガーの斡旋話を避けようと、噂の類でいいから、未踏の遺跡とかないだろうかと振ったんだった。

 彼は二つ返事で聞きこみに走った。申し訳なくなったぐらいだ。なんでそんなに一生懸命なんだよ?


 伝説の遺跡やらはあるって話だった。復活した村長が食いついてきたけど、途中から何を言ってるかわからくなった。


 ウオルフがテーブルにつくと、アリアーデが頭をさげる。

「ウオルフ殿、申し訳ありません。お手数をおかけして…」

「いえいえ、とんでもない」


 イラーザが対人用の仮面を被り、上品に話かける。

「昨夜ですが。皆さん、結構お馴染みというような形でお話をされていましたね。この村には長く語り継がれてきた物語があるのですね」


「それなんですけど、詳しく調べると出元は父だったんですよね。結局は皆、父から聞いた話のようなんですよ」



 なんだあ…ふがふがの話なのかあ。

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