第234話


「…才の問題だろ。どうみても闇とも違うと思うし」


 俺がアリアーデのボケに丁寧に答えていると、イラーザが語り出した。


「私の…師匠がいうには、才というのは、色々な能力が合わさって、各数値がそこに達すれば現れるものだと。

 一つでも基準に達しなければ才という形では現れない。もうちょっとで…という人は、結構いるものなのだそうです。

 それが魔法も含めて、才というシステムらしいです。だから簡単に諦める事はありません」



 アリアーデは少し興味ありげに尋ねる。

「聞いたことがない話だ。事実なのか」


「師匠はいい加減な人でしたが、証拠はあります」



「ええ、じゃあ、私も魔法が使えるようになるかな?」

 ライムがイラーザの腕を取る。目をキラキラ輝かせていた。


「ああ、でも魔素を作り出す根源、いわゆる魔力が無ければだめともいわれました」



 イラーザから、先程までの不真面目な気配は一切消えていた。


「最初、私に魔法の才はありませんでしたが、彼女に魔力があると言われたんです。魔法使いになれるかも知れないと。そそのかされて、私は木に登ったんです」


「姉さま、私にその魔力はあるの?」

「私には鑑定できません」



 イラーザの詳しい生い立ちを聞いたことはまだない。それはもっとじっくり聞きたいものだ。魔法の勉強もできる限りちゃんとしよう。


「今度、聞かせてくれ。今は仕事を済まそうぜ」



 モンスターはいないと確認した砂原に降り、俺はマルーン邸で頂いて来た荷物を部門ごとに取り出した。

 少し整理する必要があった。全ては無理だが、今後必要とされるものをある程度まとめておこうと思った。


 アリアーデは、その量と雑多を極めた種類に呆れたようだ。


「お前…これ程とは…。酷いことをしたとか思わんのか」


「まるで思わない」


 前にも彼女に問われていた。マルーン邸産の物を使う時、心が痛まないかと。

はっきりと自信を持って答えよう。むしろ痛快だと。



「そうか」


 アリアーデは何か不思議と納得した感じがあった。


 ライムは弾けて飛び回っている。

「すごーい!今すぐお店が出来るよー!」



「トキオ様。一つだけ、いいでしょうか?」

 後ろにいたイラーザが俺に真面目な顔を向ける。


「トキオ様の治癒は、この間も見ましたが異常です。初級魔法で手を繋ぐなんて。

 これも、師匠が言っていました。治療魔法に必要なのは、より具体的なイメージだと。

 神聖魔法と違い、治療魔法には科学的見地が必要なのだそうです」



 なるほど、それはあるかも知れない。前世で現代人だった俺には。CGなんかで体の構造を腐るほど見ているし、知っててもしょうがない事も聞かされている。


「私も治療魔法を覚えたいんです。教えてくれませんか」


 教えられるものなら教えてやりたいが。

「別にいいけど。魔法を全て覚えて。治療もって、おまえそれは…賢者じゃ」


「私は魔女になりますからね」


 イラーザはわけのわからない身振りをしてからポーズを決める。


 魔女は女性しかなれない。冷徹と科学をもって行使する、魔法使いの世界を超えたところにいるとされる。感情と感覚で魔法を操り、魔法の創作を得意とする伝説の存在だ。


 魔女になると国家の枠から外れるとされているが、俺は見たことがない。遠い噂でしか聞いたことがない空想級の化け物だ。


「魔女なんか…現実にいるのかよ?」



 俺の呟きにアリアーデが答える。

「魔女殿か、我が領辺りに時折現れるようだが、私も目にしたことはない。噂には聞くが見た事がない。世の通説通りではあるな」


「ああ、そういえば、あの時、そんなこと言ってたな…」


「どなたですか、師匠かもしれません?」

「マジか…おまえの師匠、魔女なの?」


「自称です。魔法を使う女だから魔女だといってました」

 それじゃ、おまえも魔女って事になるじゃねーか。


「ミドウに姿を現すお方は、魔女ノワール。そう呼ばれている。善良な方と聞く」


「じゃあ違いますね。私の師匠はクロです。ある日置き去りにされました。恨んでいます」


 え……と。いろいろ突っ込みどころはあったが、とりあえず今は黙っておく。



 ガーの村に行くんだ。

 これ以上、間を開けると俺は行けなくなる。本当に来たの?とか、誰だっけと言われるんじゃないかって想像の方が大きくなって、近づけなくなってしまうからだ。



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