第185話


*アリアーデ


ギバー領北部は断崖絶壁の先に海がある。若干の浜はあるのだが、距離が短かすぎる。そこに建物を作っても嵐が来たら跡形もなく波に流されてしまう。


海に巣食うモンスターも危険だ。そのような事情により、ギバー北部の海岸線は捨て置かれているのが現状だ。


日が暮れて間も無く、その小さな砂浜を駆ける黒馬があった。騎乗している者の姿は宵闇にも白く輝いて見えた。


「随分遠くまで来てしまったな、ネーロ」

「ブルル…」


アリアーデである。白銀の髪が風に踊る。人の気配が薄い銀眼で、辺りを見渡す。彼女の周囲には手つかずの自然だけがあった。


彼女はミドウの城から、軽い散歩に出かけたつもりが、ついつい遠出してしまっていた。そこはヨウシ市までは五キロ程にまで迫っていた。


アリアーデは朝早くに城を出ていた。探し物をしていたのだ。目的のものは未だにみつからない。



海岸線からヨウシの街に行けないことは伝え聞いていたが、このまま引き返すよりはましに思えた。

 彼女は今晩の目的地をギバー領ヨウシ市に決める。


彼女は、偽りなく散歩のつもりだったのだが、何故か装備はビバークを想定した物だった。


岩の裂け目から清水が湧いている所で止め、馬から降りた。黒馬は下の水溜まりに鼻を向ける。


「ネーロ、随分、無理させたな。ヨウシはもう少しだ」

「ブルル…」


アリアーデは、ヨウシ市の方に目を向ける。

「あの男は、そこにいるのだろうか…」


 彼女はトキオの顔を思い浮かべてみるが、聡明な彼女にしては珍しく、うまく思い描けなかった。背格好とか後ろ姿だけが脳裏に浮かぶ。


 心臓が一、二回強く弾んだ。


「やはり…これは恋なのか」



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