第184話

*エピローグ


とっぷり日が沈む。煙が上がらないよう気を付けて海岸バーベキューを催したのち、ライムはあっさり眠りについた。イラーザもウトウトしている。

 


俺はなんとなく夜の海岸を散策しに出た。

良くわからないが懐かしい気がした。前世は海辺に住んでいたのかもしれない。

 

岩棚が少しだけ高くなっていて、そこに僅かながら木々が生えていた。

 

最初ここが一等地と思ったが、いかんせん狭すぎたので家は出せなかった。俺は少し地ならしして、そこにベッドを出した。

 

ライムの監禁されてた部屋にあった奴だ。ファナに頂くからと語った後、目の前で収納してやったんだ。隠す必要がなかった。


何しろ後で、屋敷消すとこ見られるからね。

 

俺はボーンとベッドに倒れる。仄かにイラーザの香りがした。


「ふふ…」

胸いっぱいに吸い込んで悶えていたら気配を感じる。ベッドの横に立つ者がいる。

 

イラーザだった。


「…………」


 

軽蔑の瞳でも浮かべているのかな。と思ったが、見ると悲しげな顔をしていた。


彼女はくるりと身体を回し、腰掛けた。

ベッドの外を向く形になったので顔は見えなくなる。様子は儚げだ。


「どうした?」


「こんな事…言う気は無いのです。まるで本意ではありません」


 俯いている。暗闇で何も見えない足元に目を向けている。


「不本意です…」

 

うわ、やっぱり変態行為を叩く気なのかな。待って欲しい。それを狙ってここに出して一人プレイをしようとしたわけじゃないんだよ?

 


「ライム…きっと傷ついています」

 

なんだ、それかよ。言えよ普通に。

ホッとした俺は、優しい声が出る。

 

「ライムの事は任せろ。先回りして工作する。奪還計画を立てていたようにな。それを、あの父ちゃんが嫌がるわけがないんだ」

 


 リリーン、リーン…。



 潮騒に交じって虫の音が聞こえる。こんな所にも虫が生きているんだ。

奇麗な音だ。一人じゃないってこんなに安心するんだ。


ここの所の一人旅では、虫の音なんか聞いたことがなかった気がする。きっと雑音に聞こえていた。

 

虫に詳しいわけではないのだが、この世界にも前世とほとんど変わらない虫が存在してる。Gもいるし。全く見たこともないのも、存在するわけだが…。


 

やけに大人しくしてると思ったら、イラーザがまた迫って来ていた。身体をくねらせ、にじり寄っていた。

この娘、どこにスイッチがついてるのかわからない。

 

暗闇の中だからか、彼女の目が動物のように光ってるように見える気がする。


 

おまえ…もしや…見えるのか?俺はマジで引いた。慄き、後ずさる。

 

「ちょ、落ち着け、来るな」

 

「なんで逃げるんですか、いいじゃないですか、ちょっとくらい」

おまえは前世がおっさんなのか?

 


「そんなことしてる場合じゃないだろ」

「場合なんです。私、あと少しで武骨な道具で蹂躙されそうになっていたんですよ?

約束じゃないですか。私の初めてを早く貰ってください」

 

武骨な道具で蹂躙って…そうか、警吏に連れていかれた時。そうだ怪我してたんだ。

 しまった。そういえばそいつをやっつけてないな。

 

イラーザは怖かったんだな。その時、そんなことを…俺の事を考えていたのか?

 助けてください、とか思っていたのか…。


おまえ、そんな健気なのか。途端に抱きしめたくなった。

 

だが、すんでの所でブレーキをかける。

 

俺は自分を止められた。あんまり前世の記憶は無いけど、長いこと生きてるからね。そういう足し算は無いけど、足すと大分おじさんだからね。

 

そう、この娘は怖い。

刺される。刺殺される未来が見える。リアルな映像でだ。

性格が怖い。

 頭が回るところも、魔法が上級に届きそうなのも怖い。

 

「…言っただろ。おまえに、そんな事したら一生付いて来そうだからな」


「フフフ、本当にバカですねトキオ様は。やってもやらなくても、私は一生ついて回ります!」

 

 

こいつ、言い切りやがった。しかも、悪いものみたいに!


 これは…どうなんだろう。俺はどちらかといえば計算高い。


 やってもやらなくても同じならやった方が良いじゃない。

 過去に、そんなセリフを言った偉人の記憶はないが、言われた事にしようか。


 心地よい風と波音が聞こえていた。海辺に高級なベッド。悪くないシチュエーションだ。





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