第183話
マルーンの屋敷から、追加分を含めて根こそぎ奪った俺は、笑い終えると一言だけ述べた。
「ザマーー!」
そして、イラーザとライムを小脇に抱えて飛び立った。
「ヒョヒョヒョヒョー!」
勿論、能力は最大限に隠した。跳躍だ。ピョーンピョーンとノミのようにリズムよく跳躍を繰り返し、敷地外へ飛び去ったんだ。
小脇に抱えられてなお、二人は笑っていた。
彼女たち二人を小脇に抱えられるほど大きな男じゃないが、後ろから腰に手を回すと彼女たちは首に手を回して来たので安定した。
きっと観客は、俺の事を恐ろしい跳躍力のある奴だと思っただろう。バッタだな。重力を操るような恐ろしい能力には見えなかっただろう。
ヨウシ市は都市壁に囲まれた商売が盛んな街で、人々の往来は多いが、背後は絶壁の海に護られた形となっている。
その崖には一部を除くと近づく者がいない。
空を飛ぶ俺には問題ないので散策した事がある。上から見ても見えないところに、ちょっとした岩棚があるのを知っていた。
ある程度整地して、調整用の岩を並べる。平べったい形をした物だ。
なにをしているのだろうか?ライムはそんな目で見ている。
土台は完成した。そこに異次元収納から、小屋を出した。イラーザの追加要請に従って、最後の方に取った。ちょっと良さげな建物だ。
夕映えの海岸に、味のある木造の戸建てが出現する。
「ふぁーー…」
「きゃーーーー!」
これは収納する時にも思ったのだが、最高の物件だった。土台が高床式で六本の柱に支えられた構造だったので、完全な形で持ってこれた。
うん、こんなもんだろう。確認を取るため後ろを向くと、彼女たちの拍手喝采を受ける。
「ふわーーーー!」
「きゃああーーー!」
俺は、大はしゃぎのライムに目を向ける。最後には飛んでしまったし、これで異次元収納も見せた。この娘には秘密を大公開してしまった。
まあ、仕方ないと思っている。俺たちが調子に乗って屋敷を駆け回り、欲の皮を突っ張らせていたのが原因で、彼女に被害が出てしまったんだ。
それに正直、偽装するのが結構面倒だった。いいと思う。本当の秘密は語っていないし。
この小屋は庭師たちの休憩施設だったのか、結構立派な造りだから、庭園で何かを開催する時にも使われていたのかも知れない。
片側は簡易的な作業室と倉庫。もう片方は居室だ。テラスもついている。
扉を開け、中を駆け回りながらライムが騒ぐ。
「きゃわわわ!家だ。家です。海辺の一軒家だ!すごいよ、トキオ様はなんてすごい人なのかしら!」
子供だな。俺はすごくなんかない。
たまたま力があっただけだ。俺が思うすごい人っていうのは、心に綺麗な物を持ってる人間だと思う。そしてそれに従える人間だ。
俺のような小物とは違う。
俺がその時、頭に浮かべたのは、そこにいるぱっつん娘とアリアーデだった。
あの気高い娘はどうしているかな。
今、何をしてるだろうか。そろそろあの件は忘れてくれただろうか。
「こんなすごい人に、二度も助けてもらって…私どうしたら」
「いらないこと言うなよ。すごくなんかないって」
「いーえ、お姉様が神のようにしたうわけです!すごい人です!」
なんなんだ。この子に生まれた勢いは。イラーザファンだからなのか?
「普通は力があっても、貴族から家を取ったりしないです!」
そりゃ…出来ないだろ。この能力がないと。
イラーザは窓を開けて外を眺めていた。風を受けて黒髪が靡いている。
俺は、その隣に並んだ。潮風が柔らかく入って来ていた。
「これは気持ちいいね」
「はい!」
「イラーザ…後悔してないか?」
「え、なんですか?」
「いや、よく考えると、あんだけビビってたおまえを、無理矢理引きずり出した気がしてな」
イラーザはグルグルした黒目で、俺の目の奥を覗き込んだ。そんな気がした。
「いいでしょう。小心なあなたに、欲しい答えを上げましょう。
私はあなたと駆け巡る人生を選んだんです!
今、それを選んだ自分を褒め称えています!
私、最高!私史上、最高の選択でした!
今日はとても痛快な一日でした!やってやりました!
あの子を、酷い目に遭わせてやろうと思っていた貴族を、逆にとんでもない酷い目に遭わせてやりました!
この日のために生きていた。そういっても過言じゃない気さえします!」
「言いすぎだろ」
「いーーーーえ!」
「じゃあ、後はもうおまけだな。これからご隠居かー」
「うっ……皮肉とか意地悪は…上手に出る人ですよね?」
口元をもごもごさせ、なにやら毒を吐くイラーザを眺める。
俺も楽しかった……約束しよう。
バカなヤツだが、おまえの為ならエタニティリザーブを惜しまない。
当たり前に思うかもしれないが、 肝が小さな俺にしては、相当な誓いだ。
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