第167話
*閉ざされた部屋
「ねえ、なんでこんな事になったんだろ。わたしはなにか悪いことをしたの?」
それ以外何も置かれていない、寒々しい部屋のベッドに、ライムは腰を下ろしていた。
ファナは手を前で揃え、優し気に微笑み、ライムの前に立っている。
「あなたは、なにも悪い事をしてはいない。原因はあなたの能力なのです。
あなたは水路でメダカを見かけて獲ろうと思いますか?
別に獲りませんね。でも中に変わった色のメダカがいたら?
然る方は、あなたが変わった色のメダカだと知ってしまったのです。
そして然る方は、あなたの色は虹色に変わると考えています。
だから是が非でも欲しかった。あなたにはなんの落ち度もありません。
私にも変わった力があります。それで虜になったのです」
「私はどうなるのかしら。ひどい目にあうの?」
「私はあなたの世話をするよう言われました。私が側にいる限り、あなたを酷い目に合わせたりはしません」
下向きの睫毛、目を閉じているような、微笑んでいるようなファナの目元を見ているとライムは少し安心できた。
縋り付いてしまいそうになったが、ライムは優し気な笑顔に騙されたばかりだ。自分を律する事ができた。
「…これから私はどうなるの?」
「イースセプテンの国領で暮らすことになるでしょう」
「そんな…」
「確かに何もかも失う事にはなりますが、あなたの能力は大変に貴重な物です。あなたは尊重され、何一つ不自由無く過ごされるはずです」
「そんなのいらない。私は家族……」
ライムは思い出した。父親に捨てられた事を。シーツをつかむ指に力が入る。これ以上何かしゃべるとそのまま泣いてしまいそうだった。
ライムはベッドの端に腰かけていた。
ファナは傍らに立ったまま、そっと彼女に触れて抱き寄せた。お腹辺りにライムの顔があった。優しく髪を撫でる。
「着替えを、置いておきます。必要な物があったらお呼び下さい。
そうだ、くれぐれも逃げようなどと思わないでくださいね。
罰則を与えたりはしませんが、それをする度に居室がより牢獄に近付きますよ」
「ねえ、あなたを信じていいの」
「信じてどうしますか。私は敵ですね」
パタン。扉の閉まる音を響かせファナが退室した。
ライムには、閉まる前に警備の人間が廊下にいるのが見えた。
ここから一人で逃げ出すのは不可能に思えた。
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