第146話


 ゆったりと微笑んだイラーザ。


 ちょっと…というか、かなり可愛かった。いや、待てよ!

「…おまえは俺を人食いだと?」


「ふふふ…」

 

 イラーザは少しだけ辺りを見回した。何故か、誰も見てないか確認するように。そして、頬をもう一段紅く染める。

 

「私は、あなたを信じている人間です」

 

 その目に俺は吸い込まれそうになった。その黒い瞳に。輪を重ねたような瞳に。ぐるぐるしていて怖いと思っていたのに。とても綺麗に見えた。

 


 ああ、まただ。やられた。また、何かを撃たれた。


 鼓動が強く速くなった。

 あの時のアリアーデと同じだ。その瞳だ。なんて優しい目で見るんだ。


 

 これは本当にあのイラーザなのか。

 そんな目で見られたらもうだめだ。大切に思ってしまう。まずい。この娘を、イラーザを好きになってしまった。

 

 というか好きだ!


 そういえば、前世の小学生時代には女子に名前を呼ばれただけで、好きになっていた気がする。

 あれ、これは好きの価値を著しく下げる発言か?

 

 実は、恋愛ってのがよくわからない。前世でも今世でも食べたことなかったからな。アニメキャラなら好きになった事がある。ヨメとは言わなかった。

 

 

 俺は確認を取っておくことにした。

 未だ疑問だった。知りたかった。


 あの疑り深い目で、俺を始終追っていた女が、どうして信じているなんてさらりと言えるのか。

 何故、一人で俺を追って来る決断ができたのか。どこで俺を眼中に入れたのか。最初のきっかけはどこだったのか。

 

「ちょっと聞きたいんだが、おまえは一体どこで、俺に注目したんだ?」


「まだ、二人は出会ったばかりの頃です」

 


 臆することなくイラーザは語りだしたが、彼女の頬はまだ紅かった。


 少し下に目を向ける。明るい地面が黒い瞳に映り、綺麗だった。思い出深い過去を回想しているようだ。

 

 これは誰なんだろうと、いうくらい女の子していた。

 なんか、つられて俺の胸の鼓動も上がってきた。恋かな。

 

「パーティで街中を移動していた時です。向こうから歩いて来たバカそうな男が、先頭を歩いていたシリルのスタイルを見て、ヒュッっと口笛を吹いたんです」

 

 イラーザは微笑んでいた。大切な想いが壊れないよう、ゆっくり丁寧に言葉を紡いでいる様子だ。

 

「そのあと、男は流れるように私に目を向けました。

 そして言ったんです。

 小さ!ミニマム!真っ平!そして奴らは三人共、大笑いしました。

 シリルもデッキも、それには気づかなかった。

 あなたと目が合うと、知らん顔されました。

 

 しょうがないです。よくある事です。殺そうと思ったけど、そんなに気にしてませんでした。


 けど、そいつらはいきなり転んだんです。三人同時に。

 

 そこには、何故か肥え桶が置いてあって大騒ぎになりました。

 そいつらは、それはそれは悲惨な事になりました。しばらく糞尿トリオと呼ばれていましたね」

 

「………………」

 

「デッキとシリルは騒ぎに気付き、何事かと振り返ったのに、あなたは何故か、気づかなかった。


 それを私は、不審に思いました。

 

 あれからずっと、あなたを見ていました。



 雨の日も風の日も。街角でも、道具屋でも。宿屋でも、ダンジョンでも。森林でも。廃墟で食事した時も。

 

 あなたが慌ててトイレに行く様子も、スッキリして帰ってきた様子も。


 気づけば私は…あなたに夢中になっていました」

 

 

 マジで絶句した。

 

 そんな事!そんな小さな事から、あの目で見て追ってきたの?

 いや、ちょっと待って。落ち着いてイラーザ!

 殺そうと思ったのに気にしてないって何?

 

 じゃねーよ!話が全然、恋愛物じゃなかったけど?

 何をこの娘は好きになったの体で話てるんですか?


 おまえのそれは、ただの気の迷いじゃねーか!

  危うく両思いかと思っちゃうところだった。危ない危ない。

 

 

「あれは、あなたですよね?」


 イラーザは落ち着いた瞳で微笑み、確信をもった表情で尋ねる。

 

「いや、違うよ。何の話?」


 

「えへへ、私たち完全に通じ合っていますね!」

 


 なんで今ので、そう返って来るの?

 何を嬉しそうに語るんだよ。


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