第142話


 五人の山賊を連れて、都市門の前に着いた。


 これは楽な道のりではなかった。


 イラーザに事情説明を任せる。お尋ね者の俺はこの街には近づけない。門の寸前で姿を消すことにする。


 あの時、仮面のメイクをしたのは愚策だった。仮面を被ってごまかすことすらできない。まあ、普通顔の俺の事だ。すぐに忘れてくれるだろうが。


 

「なんで?なんでなの?トキオ様は私たちの命の恩人なのに?」

 こら子供、なんだそれ。トキオ様いうのやめろ。


「闇に生きるとはそういう事なのです」

 …いつ俺が、闇の住人になった?


「そうなんだ!」


 ライムは、両手を胸の前で重ねて目をキラキラさせている。なんで嬉しそうなんだよ。


 …だめだなこれは。この子はイラーザに毒されてしまった。もう戻れないだろう。かわいそうに。人を柱の影から見る子に…。



 ここまでの道のりだが、イラーザが突然、眠りの魔法を覚えたので、悪漢達の面倒を見る手間が大幅に減った。

 とはいえ、空は飛ばなかったので結構苦労した。

 俺もここからは走って消え去る。

 


 森林の樹上に潜み、門内に吸い込まれて行く彼女らの様子を見守った。本当なら、ここで立ち去るべきだと思う。

 イラーザと同行するのは危険だ。


 俺は、上級魔法の使い手として、覚醒し始めたイラーザの成長を恐れた。彼女は魔法の真理に近づいている。


 魔法使いの才を得たとしても、初級魔法すら虫食いにしか覚えられず、終わっていくのが大半の世界なんだ。

 上級魔法を操る者を覚醒者という。


 ちなみに俺の才、癒しの魔法使いには覚醒がないといわれている。だからパーティを追われた。

 実は違う才を覚醒させてるけどね。


 イラーザの力は脅威だ。俺のショートリザーブは意識を持っていてこそ発動できる。それを思うと怖い。秘密の一部も知られたし。


 でも、俺は立ち去り難かった。

 俺は彼女を知ってしまった。ジト目で柱際から見てるだけの娘じゃなかった。


 しかも俺を探しに来てくれたという。いや…探しに来たという。頼んでないからな、別にへりくだる必要はないな。



 なんだろう。とにかくだ、良くはわからないが彼女と離れ難かった。


 あの約束?いやいや、それではない。そんな…下半身に操られるような人間。それではないと信じたい。


 そうそう、そうだよ。ちょっと金が欲しかったんだ。


 いろいろ集めた素材を少し売っておこうと思っていた。いくら俺の倉庫がでかいと言っても、忘れない内に取り出しておかないといけない。

 紐も補充したいしね。



  彼女らが事情説明に追われているだろう頃を、俺は崖の途中の小さな突き出しで過ごした。優雅な休日だ。


 人は何の予定もないと優雅には過ごせない。俺はこの旅で知った。する事があって余裕があるから、余暇を楽しめるんだ。


 何もないと、あまりリラックスできない。なんか少しハラハラするんだ。

 大丈夫か俺?大丈夫なのか俺?そんな問いかけが聞こえるんだ。

 まあこれは、俺の気が小さいからかもしれない。


 この後の俺には、イラーザに会いにいく約束がある。

  なんだろう。安心感がある。



 俺は気分良く辺りを眺める。この場所は絶景だ。地上まで百メートル以上はある。崖の上端は若干オーバーハングになっているので、頂からは見えないだろう。


 崖の上方は青空だった。鷹の雛とクライマーしかこの景色を堪能できないだろう。


 イラーザは大丈夫だろうか。


 なんか胸が時々騒ぐが、気にしないふりで過ごす。雲が右から左に流れていくのを数えながたりしながら。


 アリアーデ元気かな。マカンはまだ来ないよね。



 突然の雨は黄色かった。誰かが崖の上で放尿したのだろう。ふざけんなよ!霧状になったヤツを吸ったかも知れない。


「く…ちょっと肺に入った」


 俺も今度から崖側で放つのはやめよう。とんでもない能力を持つ奴の逆鱗に触れるかも知れない事に気づいた。



 そんなこんなで、やっと日が暮れてきた。


 めっちゃ時間が経つのが長かった。

 時が経つのを長く感じる。一日千秋の想い…。


 問題だ、俺は彼女に会うのを、そんなに楽しみにしているのだろうか。



 そんなバカな…。パーティを追われて、振り返った時、ほぼ悪口しか出てこなかったあの娘に…。



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