第140話



 二人が話している間に、俺はささっと悪党を縛り上げた。

 俺は紐の扱いに長けている。


 手首を切り落とした男は、そのまま放っておくと死ぬので、一応繋げておいた。


 この後、彼女たちにこんなことを聞くわけだが。

「で、こいつらをどうする。殺しちまった方が面倒ないんだが?」

 


 二人はピタリと止まってしまった。


 見た目に騙されておくと、全く酷な事を聞いてしまった。小学生の女子たちに聞くことじゃなかった。

 

「いや、ごめん。変なこと聞いたな。俺に任せてくれ」



 俺は悪漢達に向き直った。

 目を洗うための水もあげていないが、自家生成の水で上手くやったようだ。悪党でも、いざとなったら涙がそんなに出るんだね。


 心の毒成分は流れ出たかい。無くなっていてももう遅いけど。


 彼らは、薄目程度なら開けられるようになっていた。痛みが消えたわけじゃないだろうが、命の瀬戸際だからな。痛いとかいってる場合じゃないだろう。


 

「悪いけど死んでくれ。おまえらを連れて帰るとか面倒すぎるし、どうせ生きていてもロクな事しないだろ?」


「待ってくれ!待ってください。俺は奴隷に!奴隷になりますよー!」


 へえ、そう来るか。あながち隷属の首輪も、全てが強制されてってわけでもないのかも…。


「だから面倒なんだって。イラーザの乳触ったんだろ。もう死んどけ」


「触ってないですよー!断じて触ってないー!悪いことしたのは認めるけど、それはまだやってなーい!イラーザちゃん、なんとか言ってー!」


 頭巾の男が、情けない顔でイラーザに投げかける。


「お父さん触ってないよね?それに、それに、殺す気はなかったよー!全然なかったよー!君らは大切な商品だもん。最後は幸せになれよって、ぎゅっと抱きしめて、優しい言葉をかけてあげるつもりだったよー!」


 ……ふーん。


 次に口を開いたのは黄髪巻き毛だ。


「そうだよ殺すのはやりすぎだよ。覚醒者は貴重なんだよ。特に若い奴隷となると大変な価値があるのさ。皆大事にされてるんだよ。だから全然殺す気なんかなかったよ!ねえ、助けてよ、ライム!僕はさあ売った後も、時々様子見に行ってあげるつもりだったよ!お菓子とか、花とか持ってさ!優しくしてあげようと思っていたよ♡」

 

 …………おまえら、実は殺されたいのか?


「じゃあ、火に油を注いでるようなので終わらせるね」

「いや、ちょっと待って…」


 俺はせめて瞬殺してやるため、風魔法を選ぶ。あっという間に粉砕してやろう。あとは森の掃除屋が始末してくれるし。

 俺はこういう時、損得勘定で動ける。ちっとも心が痛まない。


「風よ…」

「待ってください!」


 

 俺は振り返る。イラーザが真面目な顔で立っていた。

 もう放つ寸前だった魔法を霧散させる。


「トキオ様、なんて恰好いい人ですか。しっこちびりそうになりましたよ」

「女子がいきなり何言ってんだ?」


「連れて帰りましょう。確かに彼らは、殺す気まではなかったようです。命まで取ってしまったらフェアじゃない気が、一ミリくらいはします」


「イラーザちゃん!」



 俺は、馴れ馴れしい頭巾のおっさんに目を向ける。どうもなんかこいつは気になる。始末した方が後腐れないのに…。

 クールな心に思うだろうが、俺はびびっているだけだ。小さいので後の事を考えてしまう。イラーザの方が人間が大きいんだろう。


 小さいのに大きい娘に目を向ける。

 

「…いいのか?」


「同じ目に遭わされる。あなた達はこれから枷を嵌めて一生奴隷として生きる。それでいいんですね?」


「もちろんだよ、イラーザちゃん!本当に、なんて良い娘なんだよー!ハア、ハア」


 このおっさん、なんか興奮してっけど、本当に大丈夫なのか。

 

 イラーザは意外と気の優しい娘なのかも知れない。これなら、そんなに怯えることはないのかな。あの頃は、陰気ばかりを振りまいていたように見えていたけど、結構かわいいし。


 そう思ったのは一瞬だった。


 彼女は森に入って、棒を拾ってきたんだ。そして言った。


「…同じ目に遭わせます」


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