第131話



 痛って。重力の調整を誤った。


 凸部に加速度的な衝撃を与えてしまった。これから気を付けよう。ばっきしてる時に落下は禁止だ。飛び降りてはいけない。

 


 若干涙目になりながら舞台を見回す。

 イラーザの話だと、男が全員で五人いるという話だが、見たところ今は二人しかいなかった。


 逃げたイラーザを探しに行っているのだろう。目の前にいるのはハゲと頭巾、どちらも大きな男だ。

 

「なっ誰だ、おまえ、今どっから現れやがった!」


「他の奴ら、どこに行った?面倒だから集めてこい」


「はあ、この小僧何言ってやがる…」


 ハゲに傷がある大男の方が、白目の大きな目をギョロリと向ける。


 あ…、そこで、俺は気が付いた。

 向こうも気づいたようだ。こいつはあれだ、あのヨウシの酒場でガーをいたぶっていた糞ハゲだ。


「ふーん」


 …よく考えるとどうでもいい情報だった。まるで意味がない。


「この野郎、よくもあの時はー!」


 敵は、大仰な傷の入った広い額に青筋立てて怒っている。こいつには重要だったらしい。俺は冷めた目で見やる。


「待て待て、聞こえなかったのか、皆集めろって…」

「小僧をどこにやった、糞がーーーー!」


 青筋立てて向かって来る。結構でかい男だったんだな。酒場では気付かなかったよ。コイツを倒すのは、イラーザ的にいうとガーの係だな。

 俺じゃない。


 せっかくだから、もう一つ実験する。俺は超速をかけない。ぬるっと避ける。足を出すと、見事にハゲは転がって行く。


 やっぱりだ。俺は普通にも素早い。実は間抜け相手には魔法を使う必要がないようだ。

 無敵だ、無敵。あはははは!皆、俺にひれ伏すが良い!

 いかん、いかん。調子に乗ると危ない。経験したばかりじゃないか。

 


「くっこの…」


 もう一度襲い掛かろうとするハゲを頭巾の男が止める。ぼそぼそと何か話しているが、俺には気にもならない。



「おーい、おまえ。なんだー?何の用だー?」


 頭巾の男は笑顔を浮かべ、気さくに話かかけて来る。

 バッタリ出会った旧友に話しかけるかのようだ。だが、この場で浮かべる顔じゃない。


 俺は予想する。こいつは平気で人を騙す類の悪党だ。お年寄りの荷物を預かってそのままパクってしまう。そんな事ができる奴だ。

 預かったカバンの中身を石に変えておいて、笑顔で渡すタイプだ。あとは…厨房で床に落とした人参を、洗いもせず皿に戻すタイプだ。

 余裕がありすぎて、どうでもいい事を考えてしまう。


「ライムって子を返してもらう。おまえらはついでに懲らしめてやるぞ?」


 頭巾の男はにっこり笑って手を振り、背を向けた。ちょっと待ってろと言うのだろう。いいよ。いくらでも相談して。無駄だから。



 頭巾はハゲの肩を抱き。少し離れた。

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