第130話


 起伏は少なく見えるが綺麗な形なんだ。優美である。うん、やっぱり小さいながらも鑑賞に堪えるな。

 

 見てた、確かに見ていた。この形、立派なサイズのシリルより長時間見ていた。この娘はウエストもとても細い。さっきはっきり知った。


 張り出しが小さく見えるのは、造りが華奢だからなのでは…。

 視線をイラーザの顔にちらりとまわす。


 神様♡そんな感じで、俺を見ているイラーザの眼が怖い。どうしてこうなったんだろう。逃げた方がいいな。これが終わったら距離を取ろう。

 

「にゃー」


 意味不明の掛け声に乗せて、俺は両人差し指をそっと、真っすぐに繰り出した。この時の俺は、時間遅延を使っているかのようにゆっくり動く。

 俺がスロービデオの住人だ。


 素早くは、攻撃と勘違いさせる。避けられてしまう。危険を感じさせない、安心感のあるスピードが重要だ。それで都合2回成功させてきている。


 つと、指先が沈む。当たりだ。


「……!」


 ピクンと動くイラーザ。

 正確に突いた。

 

 あそこは、より柔らかいのだ。まるで腐ったフルーツのように柔らかい。だが、僅かなはね返しの弾力が、果物などではないことを知らせる。


 そのままでは置かないぞと、微妙に反発してくる。


 薄い。胸の筋肉に接地するまでに距離が無い。ずぶずぶとはいかない。アリアーデより遥かに到達するのが早い。


 しかし必要十分の柔らかさがそこにあった。


 ふにーっとする感じが悪くない。薄いからこそ味わえる感触と繊細さがそこにはあった。


 薄い筋肉越しに彼女の骨格も感じられる。その奥には命のときめきがある。


 今回は嫌がらせではないので、ぷにぷにと触感を愉しんだ。

 ああ…良い感じですぅ。

 


 だが、ここでやめる。

 あん♡とか言わせては台無しだ。


 なに?

 何が起きたの?

 俺はそれが欲しいのだ!

 


「へ?」


 

 ばっちりだ。十分に間をおいてからのイラーザの反応。

 見事に固まっている。

 


 俺は時間停止のカウントを調べる。やっぱり成功だ!予測通り、三回から四回に増えている!


 俺の時間停止のカウントは、エロイことを女に言ったりしたりして、相手を戸惑わせ、時を止めると増えるようなんだ。なんて仕様か!


 アリアーデに、一発やらせてくれと言った時に増えていたので、これに気が付いたんだ。

 


「トキオ…様?」


「言っておいただろう。違うから。そういうんじゃないから。エロじゃないから。これで奴らを倒せるようになったから!

 皮肉好きな女神様から、小心者に贈られた特別な恩恵なんだ」

 きっと。


「ええ…そう…?」


 イラーザの姿が、腕で胸を隠し半身になった姿が、目を見開いた姿が、マジで可愛いじゃねーか。

 ずっと、そんなならいいのに。



 はっきり言おう。俺は完全にばっきしていた。悟られぬよう踵を返し、背を向ける。誤字じゃない。濁しているんだ。


 今から、悪漢を退治する男の背中をよく見ておけ。前からは見るなよ。


 バサッ!


  俺は格好良く、岩山の頂上から飛び立った。



 ザンっと音を立てて、俺は悪漢二人の前に着地する。

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