第129話
「どっちだ?」
「えーと、あっちです。あの岩山の辺り」
依頼をこなすったって、そんな大げさな事じゃない。
俺にはコンビニにアイス買いに行くぐらいの手間だ。財布を忘れなければ失敗しようがないミッションだ。
「あんなに走ったのに…随分近くに…」
「上から見るとそう見えるんだよ」
「トキオ様…優しい」
え、なにが?
イラーザさん、上空に上がって不安なのはわかるけど、足を絡めるのやめてくれる。なんか坊やが反応しそうですよ。
そうだ、そうだな。せっかくだから、彼女には罰として、ある実験に付き合ってもらおう。
イラーザの指差した、禿げた岩山が眼下に見えてきた。
「あそこです。ああ、荷物がある!良かった!いる、まだあそこにライムはいるみたいです!」
女の子の名前はライムね。
岩の下の方のえぐれた部分に座っているので、上方からは良くは見えない。イラーザと同じくらいの少女が毛布を被っているようだ。
岩肌が朝日に照らされていた。逆光になっているので敵に視認された節はない。影を落とさないよう飛び越えて、岩山の上部に着地する。
彼らの頭の上だ。
イラーザの肩を掴んで引き離す。がっしりと抱き付いて来て離れなかったからだ。本当は離れ難い気持ちもあったのだが、クールを気取る。
彼女は小さいながら、柔らかな膨らみを持っていた。
でも、目が怖い。もう俺しか見えてないみたいな。輪を重ねた高級な単焦点レンズみたいな目が怖い。ぐるぐるしてる。
そんなことを考えながらも、俺の鼻息は若干上がっていた。丁度良かった。さっきのような傷ついた乙女モードでは流石にやり難かった。
『ショートリザーブ』
「ん、何か言いましたか?」
「いいかイラーザ…」
本当のこと言うと一部充血していた。マントでさりげなく隠す。
今回はアリアーデの時とは違う。ある程度はエロい心でやってもいいのだ。許されるシーンだ。
俺はドキドキしていた。
悪漢ごとき相手には、問題があるわけないのだが、念のためショートリザーブを刻んでおいた。細心の慎重さを俺は持っている。
泣き出されたら困る。
「これから俺がする事は決して悪戯ではない。作戦成功の鍵になる、まあ実験的なものだが、俺の将来に、生死に関わる重大な問題だ。何が起こっても俺の性根を疑わないように」
「はい信じます。信じています」
ぐるぐると輪を重ねる、彼女の黒い瞳には俺しか映っていないようだ。
おいおい、よせよ。なんてセリフだよ。免疫ないんだから。好きになっちゃうじゃないか。
さあ、決行する。それはアリアーデの時より格段に難しいと思われるが、決して失敗は許されない。
しかし斜めに差し込む朝日が、彼女の形を、彼女たちの形を、輪郭を、如実に表していた。
前言を撤回しよう。
アリアーデより確実に判り易い。
そこだ、そこしかない!
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