第128話
「トキオ様……うう、ありがとう…ひっ、ございます」
イラーザの顔はもう、涙やら何やらでめちゃくちゃだ。もう何も読み取れない。
「これ使いな」
俺は紳士の嗜み、ハンケチーフをポーチから出す素振りで異次元収納から出した。いつかの為にと、無駄に用意していた物だ。
俺がハンカチを女子に出す日が来るとは。大分ランクが上がった気がする。
これで俺はハンカチを女子に差し出した事のある男だ。
「おまえと、その子の係を終わらせてやるよ。…いや、待て」
テンションが上がって、ついつい口走ってしまったセリフを、俺は下方修正しておこうとする。
「いや、俺は無敵ってわけじゃない。相手が強そうだったら逃げるからな」
「ふふっ、そんなご謙遜を。あなたはずっと私たちを守ってくれていました。もう、知っています。あなたは魔人。恐れるものなどないですよね。
私はあなたの僕です。私に隠す必要はありません」
「おまえ……」
地平線から日が射して来た。
イラーザは、鼻と目元を真っ赤にしながらも信頼に満ちた瞳を輝かせている。さっきまで切迫詰まった様子はなかった。いきなり安心している。
「魔人って…だ、誰に聞いたんだ?」
「ヨウシの街で、たくさん聞きました。大空を自由に飛びまわれる。
屈強な戦士を十五人、一瞬で地に叩き伏せる。
巨大な炎を吐き大地を焦がす。何にでも変身できて、奇怪な笑い声で女を気絶させられる」
なんだそれ!ほとんど化け物じゃねーか!そんなの信じるなよ。
大変な尾ひれが付いてるぞ。変身はできないし。火は吐かねーだろ。
「あの、マズーのダンジョンで、最後の時だって、私たちの為に紐を使ってくれましたよね?ほら、これ…」
彼女は服の首元を指で引っ張る。そこには編んだ紐が掛けられていた。
結構オシャレに見える。似合ってる。これがあの時使った紐なのか?あれを拾って加工して、肌身離さず持っていたのか?
嬉しいような怖いような。かわいいような……いや、怖いだろ。
「ヒョヒョ…」
思わず魔物モードの声が出る。ストーカーだし、恐ろしい洞察力と危険な思考を持っていそうでマジ怖いのだが、緊急時だし、知られているようだし、もう彼女に隠す必要を感じなかった。
俺はイラーザの腰に手を回した。
「わっ」
重力の束縛を解き、あっという間に上空に上がる。
驚かしたかと、イラーザを見ると目をキラキラと輝かせている。
「闇の王子様♡」
なにそれ?
この娘…本当に怖い。この世界電波ないのにどういう事?
「絶対あなたが助けてくれているのに、どうしても証拠が見つからなくて、ずっと疑っていて…。変な目で見てすみませんでした。
それが皆に伝播して、あんな事に…本当にすみません」
「………」
思い出した。そうだよ。その通りだよ。謝ってもらっても許せない。おまえのせいだからな。
後でたっぷり言いたいことがある。三日はかかるぞ。
だけど、この依頼はこなす。
俺は確かに呼ばれたんだ。闇に灯ったおまえのど根性で。
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