第126話


 すごい事言われたような気がしたけど、このイラーザは変だったし、なんか俺の頭には入ってこなかった。



 助けて欲しい…人か。


 男かな…デッキか?面倒くさいな。答えない俺に、イラーザは縋るような目を向ける。


「…お願いします」


 頭を深く下げた。それ以上はない所まで。


 彼女が、随分と下手に出て来るので、俺はちょっと調子に乗った。



「…おまえら、俺をパーティから追い出したよな。その口で言う?」


「わ…私は…………ごめんなさい…」


 イラーザは深々と頭を下げる。もう、それ以上は下げられないだろう。額が地面に当たっているんだ。


 でも彼女は、それ以上に下げようと足掻いている。それが伝わる。


 腰が浮き、首と背の辺りの頂点が微妙に動くんだ。

 ちょっと心に響いたが、俺は続けた。



「俺な、あの後な、人と口がきけない程落ち込んだよ?」

 本当は、俺に話す人なんかいなかったが…。



「ごめんなさい…図々しい事を言っているのはわかっています。

 けど、とても…急いでいるんです。


 後で…謝ります。必ず…します。だから、先に……お願い。

 ……先にお願いを…聞いて貰えない…でしょうか」


『ふざけんなー!何ぬかすか、くそ厚かましい!』

 

 そう、反射で返せない程に切羽詰まった雰囲気が、この時のイラーザには在った。


 両手と顎を地面についたままで、上目づかいで俺を見ていた。

 いや、上目づかいったって可愛いとか思わないでね。


 怖かったから。鬼気迫っていたよ。最上級の土下座のまま、地面に張り付いてそんな…。地から現れた地のものが、地上の者を呪っているみたいな…。

 必死の命乞いみたいな……。



「…な、なんだよ」


「お願いです、叶えて下さるなら…。何でも、私は何でもします。この身はどうなっても構いません」



 ここで俺はしっかり認識できた。

 やっぱり言ってた。あのセリフを。


 ええ、なんだこれ。流行ってるのか。女子は俺に全て投げ出したくなるのか。俺にはそういうスキルがあったのか?


 本当嬉しい。


 

 彼女は真剣そのものだった。潤んだ真っ黒い瞳。イラーザとこんなに目を合わせたことはない。


 そんなにか。そんなに為さなきゃいけない事なのか。


 俺は、それまで見せていた鼻くそでもほじりそうな態度を改める。

「おまえ、それ…本気で言ってるのか?」

「はい」


「なんでもするって意味だよ。わかっているのか?」

「本気です。今、脱いで見せろというなら…脱ぎます」



 ええ、マジで!

 脱ぐの?


 ちょっと待て。なんだよ厚かましい。まるで俺が見たがってるみたいな。

 この娘の身体なんか、見たい…かな。


 うん、見たいね。自分に嘘はつきたくないね。


 ああ、見たい。いや待てそんな話じゃない。


 そんな話はしてなかっただろ。


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