第125話


 俺は具合の良い石に座り、彼女を見守った。


 一つの悪い事もせず、じっと目覚めの時を待った。


 イラーザは岩に寄りかかり、片足を立て、もう片方は投げ出していた。よく見ると若干股が開いている。チュニックも少し託し上がっていた。



 正直言おう。時間が止まっている世界でなら、間違いなく俺は見ている。あそこは俺だけの世界だ。俺が法律だ。


 きっと頭を突っ込んでガン見していただろう。

 俺の世界にいない俺は、姿勢を低くした。



 あれだ。前世の電車で起こる事だ。対面に座った、サービス精神旺盛な女子に対してやる感じだ。

 

 むう、苦しい。亀のように首が縮んだら楽なのに…。男にはそんな機能があっても良いと…思う。



 そこで彼女は目覚めた。


「…ん」


 ほらな。

 

 夜明け前、少し空が白んできた頃だった。何もかもが真っ青に染まっている綺麗な世界だった。


 慌てて姿勢を正した俺は、用意した言葉を反芻する。

 いきなりイラーザが目覚めたら、この場所に位置どり、こう話す。きっちり決めていた。


 完璧だ。

 誰も覗こうとしていたとは思うまい。


 怪しいもんじゃない。

 俺だよ、俺。君らのパーティを追い出されたトキオだよ?


 そういう準備をしていたのだが、予定が変わる。



「トキオ…」



 彼女は目を開ける前に、呟くように述べたのだ。

 まるで朝起きて、恋人を呼ぶような響きがあった。


 二度目だ。聞き間違いじゃない。俺は困った。


 そして、目を開けた彼女が俺を見る。少しずつ焦点を合わせているようだ。半目になってない時は目が大きい。


 輪を重ねたように見える、真っ黒な瞳に俺が映る。

 


「…うん、トキオだよ?そのトキオだよ?」

 ちょっとバカみたいな受け答えになってしまった。

 


「トキオ…さん、本当に…助けに来て…くれたんですか」


 うん?なんだ、これ?意識が混濁してるのかな。


「え、なに?なんのこと?」



 そこで彼女は自身の回復に気づいたようだ。自分の身体を眺める。手のひらを見て肩を触る。安心したような柔らかい表情を見せる。


 今まで彼女に見た事無い表情だった。



「大丈夫です。皆わかってます。本当にありがとう」


 誰、この娘?なんだろ。おかしな夢でも見たのかな。

 


「あの、図々しいのですが…お願いが…あります」


 イラーザは居ずまいを整える。膝を揃え、託し上がっていたチュニックも直してしまった。


 そして正式な土下座をした。


「助けて欲しい人がいます」



『やだよ』


 俺の心の声が聞こえたのか、顔に出ていたのか土下座の態勢から顔を上げていたイラーザは眉を下げる。

 泣きそうな顔だ。


「私…なんでもします」





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