第121話

*都市門前のイラーザ

 

 イラーザは、疑り深い彼女は、貯蓄を取り崩し大枚はたいて、解呪と暗闇のスクロールを購入していたのだ。


 二枚のスクロールで大金貨一枚。

 この世界のまあまあ上質の宿に五十泊できる金額だ。


 イラーザは自分の弱点をよく理解していた。



 街道を外れ山賊に襲われた時の事だ。タイミングよく現れた彼らを、イラーザは最初から疑っていたのだ。


 山賊に襲われ、親切なポールたちに送られて、城門で手を振って別れた彼女は、こんな感じだった。



「…怪しいです」


 勿論、彼女らしく声に出していた。


 物陰に潜み、まるで誰か話し相手がいるかのように、滑舌よく話す、不気味な少女がそこにいた。


「闇の者と自称する私を、あの程度で騙せると思ったら大間違いです」


 大体、あのニコ親父、あれだけ私の胸を凝視しておいて、娘と同義に扱うとかあり得ません。見てました。あの人くらい見てました。



 通行人や露天商が、話し声に気付き目を向けると、一人語りする少女を見つけてしまう。


「右から、左から角度を変えつつ見やがって、マニアが!」


 微妙な表情をして目を逸らす通行人たち。


 状況がつかめず、口を開けたままの商店主を置き去りにして、イラーザは次々と物影の場所を変えて移動して行く。


「それで父親ぶるとか無いです」

 それに、あのナルシー怖いです。ゾクゾクしちゃうよとか、人に言いますか?


 イラーザは、店先の樽の前に身を隠すように座り、そこで突然一人語りを止めた。


 テラス席で、紅茶を手に様子を伺っていた客が、訝しんで目を向ける。


「いやいや、これじゃ言いがかりです!」

 あの親父がマニアで、あいつが超ナルシーだっただけではありませんか。


 イラーザは突然立ち上がった。ポールたちが死角に消えたからだった。


「藪から出てきたのが怪しい。道から出てくるはずです。私の二重詠唱を、はっきり認識してるのも変です」


 見ていたのではないのですか?

 私が無力化されるのを待っていたのではないですか?


「仲間が、被害を被りそうだから、出て来たのではないですか?」


 実際、私は噛みついてやりましたしね。べっとべとで、臭いがするのにも構わず、ゴリゴリとガリガリと…。


 言語化したイラーザは、それを思い出してしまった。途端に口の中を気持ち悪く感じてしまった。


「ぐえぇぇーーーー!」


 営業妨害である。



 この日の尾行はこれで終了してしまったが、粘着質のイラーザを侮ってはいけない。


ギルド前で待ち伏せし、翌日と翌々日は、彼らをつけ回している。


 結果はグレー判定だった。尻尾をつかめなかった。信用するには当たらないが、黒であるとも言えなかった。


 渡りに船の、申し出を断るには至らない。


 そこで彼女はクエスト発注という形をとったのだ。

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