第111話

*岩山


 森に囲まれた場所に、壁のよう切り立った岩山があり、手前には程よいスペースが開けていた。

 巨大な岩盤の下部は具合良くえぐれていて、夜露がしのげそうだった。


 一行はここを今晩のキャンプ地とした。仮の寝屋は同時に三人程眠れるスペースがあった。


 ポールは焚火の用意をはじめ、ジムは薪を集めに行った。

 

 日が暮れ始め、辺りが青に染まりだした世界に、白い煙が上がる。ちらちらと明るい炎が揺らめく。

 イラーザとライムは、少しずつ大きくなるオレンジの炎を、ぼんやりと見ていた。


「ああ、そうだ。二人共、これつけといてよ」

 寝床を用意していたアクスが、荷物入れから小袋を取り出し、イラーザに放ってよこした。

 中身は腕輪のようだ。二つある。金属製の腕輪にひもで小さな物が結わえてあった。


「なんですかこれ?」


「僕らの護衛対象である証と、集合の護符だよ」

「ほう、これが集合の護符ですか?」


「見たことないの?このひもに結んである小さな板がそうさ」


 イラーザは聞いたことが、あったがそれを見たことはなかった。

「へー」


 タブレットのガムくらいの、小さな木製の板に魔石が埋め込まれている。


 これは水に浮かべると方位磁針のように向きを示し、同じアイテムを持った仲間のいる方角がわかるという魔道具だ。


 通信箱と同じような類の魔石が封じられている。効果範囲はそれ程広くはないが、この魔石同士が集まろうとする性質を利用しているものだ。


「この暗闇だからね、モンスターに襲われて散り散りになったら、大変でしょ?」


「ほう」

 なるほどと。納得したイラーザは一つをライムに渡し、もう一つを自分の左手に嵌めた。


「わあ、どうです?似合いますか?」


 ライムがアクセサリーを初めて付けた子供のような嬌声をあげる。



 ポールはゆらゆらと揺れる焚火の炎の隙間から、その様子を笑顔で見守っていた。

 


 疲れたのか、夕食後ライムはすぐに眠りについてしまった。

 今はイラーザの背後、窪みの寝屋で毛布を被っている。


 焚火に照らされ、オレンジに染まった岩肌にイラーザの影が揺れる。

 ライムがいる辺りはちょうど陰に入って暗くなっているが、窪みの奥まで焚火の明かりは届いている。

 


「おーい…ボチボチいいんじゃねーのかぁ!」



 ジムが、意味不明な発言をした。


 普段から乱暴な物言いの男だったが、これには殺伐とした響きがあった。

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