第108話

*森林


仙人の洞窟までの道のりは順調だった。元々この辺りに魔獣は出ない。小物のモンスターが時々現れるぐらいだ。


 一説によると洞窟に結界があり、魔獣が通り抜けることは無いという。

 連なる険しいカズミガン山脈を越えるには随分な遠回りを強いられ、結果この辺り、ギバー領には現れないのだと。

 

 体格が良いポールが先頭を歩く。朱色の頭巾が良い目印になっている。背には荷物、大きめの盾も掛けていた。


 それからイラーザとライムを挟んで、ジムとアクスが広がって殿を務めていた。

 彼ら二人も、背には大きな荷物を背負っている。

 

 モンスターは動物に近い存在なので、狩りの対象として人を襲う。獲物として弱者を狙って来るのは常道である。



 森林が深いゾーンを抜け、岩盤が露出している辺りまで一行は到着した。


 ライムが質問攻めにしてくるので、殆ど知らない男たちに囲まれて旅をするという、イラーザの苦行に沈黙が加算することは無かった。


 ライムの旅装は身軽だ。肩にたすき掛けの鞄が一つだけ。

 イラーザも同じような装備だが、手には魔法使いの証である杖を持っている。これは殆ど殴りつける防衛用だ。


 杖は、魔法を放つのが簡易になり、正確性を持たせると言われるが、この世界ではよほど高級な物でない限りそんな力はなかった。ほぼ打撃用だ。

 

 イラーザはライムに目を向ける。


 怖くないのでしょうか。この子は。知らない人たちに囲まれて、戦闘力はゼロ。私ならおしっこちびりそうな状況ですよ。やっぱり天然ですね。


 彼女のダディも望んでいたし、私としても再び街に着くまで、その天然を守って欲しいものです。最後は聖女にでもなってくれれば、私の老後も安心です。

 

「見つけた!」


 突然駆け出し、草むらにしゃがんだライムが笑顔で振り向く。

「これ、薬草です。神経を静める力があるんだよ!」


 イラーザは彼女の周りに目をやり感心する。どれもこれも同じような色合いの草が地面をうずめていたのだ。


「こんなモサモサの中から、よく見つけられましたね?」

「私には、ぼんやり光って見えるの」


「すごいですね、ライム様は!」

 聖女の片鱗を見て取ったイラーザは、その態度に表していた。


「…ライム様?」

「あ、これ、これ!同じ草じゃないですか!」

 イラーザは目ざとく同様の草を見つけた。


「同じ場所から全部取っちゃいけないんだって。お父様に教わったの。

草たちはここに生えるため、奇跡のような幸運に出会ってるんだって。

だから、またここで増えるよう、残していくね」


 イラーザは目を逸らした。

 すご!眩しいです!私、根こそぎ派でした!生きていてすみません!


 しかし、聖女様は疑う事を知らないんですか。人の助言はなんでも素直に入るんですか。素直すぎませんか。


 そうだ、私も何か教えて見ましょうか。なんか楽しそうです。闇に…引き込んでやりましょうか。


「…ライム様は凄いですね」

「ちょっとイラーザお姉ちゃん、様やめてよ。なんなの?」


 イラーザの目には怪しげな気配が渦巻いていた。

 自信を持たせて、黒い事を平気で言う人間に育てましょう。白い毒吐きという異名はどうですか?良い、かなり良い!憧れます!

 私はどう頑張っても黒い毒吐きですから。


「様ですよ。あなたは凄い人です。ライム様は選ばれた人間なんです。

 皆さんより上の人間なんです、下々の者には指導が…」

「私がすごいんじゃないよ。神様にもらった力だもの。私は普通の子だよ!」


 呪いの言葉を、伝播させようとしていたイラーザは光に弾かれた。

 彼女にはバシッと音がしたような気がした程だ。


 イラーザは光に追い払われた蝙蝠のような気持になった。


 光に灼かれる!暗がりに逃げなきゃ。



 ライムからの、後光を防ぐように手をかざす。

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