第107話

*都市門


 石造りの巨大な出入り口、ヨウシ都市門。


 上部はアーチ状に作られているが、そこに鉄の頑丈な格子が嵌めこまれていて下端は水平だ。そこに大半を鉄に包まれた大きな扉が備わっている。

 扉は両開きだが、普段は片側しか開いていない。


 イラーザはこの街の住人ではないので、出入りの度に一々通行料を取られるのが、実は癪に障っている。


 その挙句に本日は、門兵のザンボがイラーザの容姿をからかって来る。彼とイラーザは到着の時に話をしてから、すっかり顔見知りになっていた。


 突き出た腹部に鎧が押され、独特のシルエットを持つザンボは、しつこくイラーザを追いまわした。彼女の容姿はいつもと少し違っていたのだ。


「可愛いー、超可愛いー!人攫いに気をつけろよー!絶対無事に帰って来いよー!」



 ザンボがうるさいので、イラーザは待ち合わせの場所から少し離れて待った。


 最初に現れたのは朱色の頭巾を被った男だった。太い首、古傷だらけの分厚い体幹。大きな手。出会う人、皆に声をかけられている。


 イラーザを見つけると人懐こい笑顔を向け、その大きな手を振ってくる。

 彼女はゆったりと見守った。


 これからお世話になるパーティのリーダー、ポール。とても頼りになりそうです。親とかがうるさいからライムを頼みますよ。


 イラーザは素直に無事を祈った。

 

「おお、イラーザちゃん。そのリボン可愛いなー!」


 今日のイラーザは、少し髪型が変わっている。いつもは耳上から前半の髪を紐で縛って耳の前に垂らして、残りは自然に背に垂らしている。


 今日は横部分の髪の毛を、いつもより後ろに纏めて垂らし、残りは背に回している。纏めた髪は大きなリボンで縛られていた。変形ツインテールともいえようか。


 耳がはっきり表れ、顔にかかる髪が後ろに回ったので表情はすっきり明るく見える。大きな顔を小さく見せるため髪で隠す技法があるが、彼女の顔は小さい。


 その魅力がよくわかる髪型だった。彼女にとても似合っていたが、確実に幼く見えた。幼い女の子によく見られるような髪型だったからだ。


 ポールは、それを口にしようか考える。

「でも、イラー…」

「一人旅でない時は、より幼く見せた方が敵を油断させられます。私が戦えるとは思わないでしょう」


 ポールが何か言う前にイラーザは言葉を重ねた。


「なるほどー!賢いなあイラーザちゃんはー」

 頭を撫でにかかるポールから、首を曲げてするりと身をかわす。


 リボンの髪が弧を描いて躍った。

 





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