第81話
エピローグ
*二日前のシカランジ南方
ミドウ領の主要部から戦災を逃れるため、領民達は列をなして街道を進んでいた。早馬が彼らを追い越し、先頭集団に何か知らせが届いたようだ。
「なんだって、アリアーデ様がリッチランを蹴散らした?」
「馬鹿な、信じられない…」
「救世主が現れたんだって。魔物のような恐ろしい奴らしい」
「さっきの地震が、そうだって」
「デマだろ。騙されるな、騙して呼び戻し奴隷にする気だ」
伝令の言葉を直接聞けなかった民衆たちは、真偽を巡り道端で話し合っていた。
それを避けて、一人足速に進む女がいる。パナメーだ。
大荷物を背負った避難民たちとは違い、彼女は身軽だった。布に包んだ小さな荷物を一つだけ持ち、先を急いでいた。
立ち止まった母子連れを追い抜く時だった。その手荷物から小さな声が響く。
『おい、聞こえるか…おい、パナメー!』
彼女は慌てて荷物を胸に押し付け、その声を消そうとする。
ぼんやりとパナメーを見ていた少年には聞こえてしまった。好奇心一杯の目を彼女に向け、母の服の裾を引く。
「おっぱい大きい!こえする!」
彼は、意表を突いた言葉を発したが、母親は大事な話し合いの最中だ。
子供は母親の視線を自分に向けようとして、縋り付き暴れた。
「おっぱい!おっぱい!おっぱい!」
ようやく母親が顔を向けた時には、怪しい女は消えていた。
「嫌だわ。この子ったら何を連呼して…なんなの?」
「おっぱい大きいこえ!」
「何言ってるの!」
「あっはっは、旦那に似たんじゃない?」
林の中、大木の前の窪地にパナメーはいた。通信箱を耳に押し当てている。
「マカン様……なのですよね?」
「パナメー、おまえはどこにいる?」
「北の砦が、吹き飛んだと聞きました。
なので、私もついにお役御免かと、考えたのですね…」
「私は健在だ。おまえは、あの砦の攻撃を見ていないのか?」
「遠くから拝見致しました。
ああ、マカン様…さようならですって、呟いたのですけど…。
なんか、天変地異でした。大地揺れましたし。よく、助かりましたね?」
「私は、あいつに殺されたあと、すぐに帰国の途に着いていたのだ」
「…そうなんですね」
「どうせなら、あの娘にとどめを刺されたかったものを。あの小僧め…」
「そうなんですね。とどめは彼にだったのですね。それは残念でしたね。
それは、貴重な体験の機会を失いましたね。
帰国ということは…もう良いのですか?」
「私は勝てる喧嘩しかしない。
ホルダーにセットした魔法を全て吐き出して、なお倒せなかった。
今、あの男に関わるべきじゃない。
アイツの秘密がわからない限り、私は近づかない」
「私は転がっていたので、よく見ていませんが。そうだったのですね」
「それでだ、おまえにはあの小僧を調べて貰いたい」
「無理ですよ。私は顔を見られています」
「あんな現場だ、しばらくすれば忘れるさ。髪型でも変えろ。歳を変えたらどうだ。わかりはしない」
「…………」
「おまえには怖いものはないだろう?タイカの代わりを見つけたら合流する」
「ハア…」
「そうだな、今度はもっと誠実そうな感じで行こうと思うのだが」
「…そうなんですね」
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