第77話
急峻な山と山の間に、灰色の石造りの砦が見える。
結構立派な砦だ。窓の上の部分に煤がついているのは、前回の交戦時に火事でも出したのだろう。
リッチランの奴らは呑気に糧食でも作っているのだろう。煙突から軽い煙がモクモク上がっている。
「危ないから、もうちょっと下がっとけ」
クラウンらに、手で指示を出して俺は空を行く。
「おおっ!」
どよめきの混じった歓声が上がる。随分見せちゃったが仕方ない。頼むから紐魔法だと思っててくれ。
もう、考えるのも隠すのも、全てが面倒なんだ。
雲の下のフックに紐をかけて登っているとか、思ってくれ。
風魔法を操るとジェット機のように飛べるが、俺は成層圏の大分手前までしか行けない。気絶するし寒すぎる。
ふわふわと静止して、異次元収納からかなりの巨岩を取り出した。斥力を働かせ、更に上空にぶち上げてから誘導する。
直前まで操れるが、この計算は難しい。
俺は触れたものに繋がりを持っている限り、方向性に影響を与えられる。通常の重力の方向、その反対方向。それらはやりやすいが横方向は難しい。
対象の速度が上がると更に難しい。
マカンがもたらした、この危機が怖かった。とにかく逃げたかった。
でもアリアーデを、あいつを助けてやる。それだけはなんとか、憂いのない形で達成しておきたかった。
というわけで俺は、偽メテオを一発ぶちかます。
敵側に占拠された北の砦の前方、いわゆる敵国側、五百メートル程先に落とす。
今回捕えた兵隊を、敵の支配下にある砦に使いにやった。投降しないなら次は、砦にもう少しでかいの落とすからね。そう伝えさせた。
きっとマカンは鼻で笑っただろう。周りの兵士たちも笑っただろう。高らかに笑っただろう。それで良し。
ズッドーーーン、ゴワゴワドゴーーン、バリバリ、ゴワオワオワワアアァァー‼︎‼︎
爆風が吹き荒び、大地が揺れた。
いやあ…。思ったのよりすごかった。
タイカの、あの程度の風魔法を大魔法とか言った、ビビりの俺が恥ずかしい。
スケールが違う。これは神の裁きだよ。
着地の瞬間、閃光が発して、世界は一瞬、色を失った。眩しいなんてもんじゃないよ。目が開けていられなかったよ。
最初は光、そして音、それから爆風だった。地震起きたし。辺りの森は吹き飛んだし、地形変わったよ。
鳥は鳴き、動物は吠え、モンスターは逃げ惑っていたよ。
やべーことしちゃった。ビビりながら現場に行き、大穴を上空から見て思う。これ湖できるね。間は山岳だし、リッチランの奴ら、今度から船で来なきゃならないな。
砦もほぼ吹っ飛んでいた。投降も何もないよ。
作戦は攻撃から突然、救助作戦に変わった。
念の為、味方には大分遠くで見物させたのに、皆、吹き飛んでいて結構大変だったようだ。
やー、ごめんごめんって謝りに行ったら、砦には味方が捕虜になっていたとか、血相変えて救助に行くから、俺も付いて行った。
大量虐殺者になりたくなくて、敵兵も区別なく治療したよ。絶対やり直したくなかったし。魔量が異常に多い俺でも、最後は少しだけ減っていたよ。
運よく、死者は出なかった。
実は直撃じゃないからね。間違って砦にぶち込んじゃったわけじゃないんだ。ちゃんと予定通りの場所にピンポイントに落としたんだ。
威力が…想像できなかっただけで。
そこで気づいたけど、俺の治癒、超初歩の癒しの呪文だけど、俺が本気出すと千切れた四肢とかくっつくよ。
俺は、必死で自分の能力隠していたから、今まで、極々小さな力しか出してなかったんだね。知らなかった。新鮮な状態ならいけるんだ。
自分の力より、上級だと思っていたポーションよか、全然上だった。
あの時の、アリアーデのは多分治せなかったと思うけど。
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