第72話
それはアリアーデの仕業だった。
水平に向いた剣先の残心が美しい。
うわー、まだ光るよ。
マカンの首が、光に包まれ質量を無くす。これで自動リカバリーは四回目だ。
これは一体、いつまで続くのか。無限なら、アリアーデ達を説得して逃げるしかない。俺は光が首を繋いだ瞬間に、奴の心臓を貫いた。
アリアーデに被害が向かわないよう考え、位置取る。
俺は剣を残した。少しでも再生を遅らせたかった。異次元収納から新たに剣を取り出す。前より大型の剣だ。こいつなら頭を真っ二つに出来るかもしれない。
より俊敏な動きを優先して、小型の剣を使っていた。
今度は頭蓋骨を叩き割ってやる。俺は薪を真っ二つにするイメージで待つ。大きく振りかぶる。
緊迫した鼓動の勢いで、揺れる視界の中で、火傷のようにひりつく痛みを訴える左足を無視し、その時をまった。
たらりたらりと、血が足首を伝うのが感じられる。心臓の鼓動と同じリズムで溢れている。静かだった。やけに遠く、剣戟の音が聞こえていた。
その時は来なかった。
必要なかった。光らなかったんだ。
マカンに五度目のリカバリーは発動しなかった。
首は彼のもとに戻ったが、胸に刺さった俺の小剣は吐き出されなかった。
その周囲が光ることもなかった。
マカンは痩身を震わせている。息も絶え絶えだった。心臓に剣を突き立てられたまま、治療魔法を構築している。
「集え精霊、逆巻け。在りし…日の在り…こ…んなばかな…四度も命を…おま…」
彼が変化させ集めたマナが散って行く。
それは無理だろう…。
マカンは俺を凝視していた。驚愕の表情を見せながら、地面に吸い寄せられるように倒れた。
少しの受け身の姿勢をとることもなく、顔面から地面に叩きつけられた。その最後の瞬間まで、奴の目は俺の目を捉えていた。
小さく、土煙が舞う。
マジで怖かった。
だが、俺も奴から目を離さなかった。
土埃がマカンの目を薄っすら覆っても見続けた。
彼の手のひらが向いた位置を避け、介錯人のような姿勢で、隙なく構えた。
瞬きもせずに新たな動きを待った。
超速がかかっているので、一秒が数倍にも感じられている。
どうやら、これで終わりらしい。
マカンはその後、ピクリとも動かなかった。
確実に死んだ。
超速を解除する。まともに音が聞こえるようになる。アリアーデの足音が耳に入って来る。
「トキオ、大丈夫か」
俺は深く息をついた。見ると血だまりの上の左足は、うっすら骨が見えていた。気を失いそうになるが耐えて、すぐ治療魔法を使った。
他の敵は何をしていたのかって?
終わってたんだ。
アリアーデもすでに気付いているようだ。笑顔が見える。だから俺とマカンの戦闘に参加したんだろう。
もう、辺りからは怒声も剣撃の音も聞こえていない。
クラウンやエナン、カリーレの見知った声が聞こえている。
「無駄な抵抗はするな、死にたいのか!」
「誰か、もっと縄を持ってこい!」
「縄は彼に渡してしまっただろう」
「よく見ろ、そこに落ちてるだろ!」
繰り返しマカンと対峙したが、その時に俺は、必ず時間停止を使用していた。
紐魔術を使ったのだ。馬の足やら、腕やら、武器やら、いろんな所を紐で結んで回った。補充したので豊富にあった。
目の開いている敵兵には、唐辛子ペーストを塗り込んだ。必殺の非情攻撃だ。水もろくにない所でやるのは本当に酷い。
そして、いかにも戦えそうなちょび髭男。立派な鎧を装備した、ドルツとかいう奴には特に気を使った。
暴れれば締まるよう縄を結び、目と口と鼻にたっぷりの唐辛子ペーストを塗り込んだ。
マカンとの戦闘中に、もだえ苦しみ、芋虫のように這いまわる姿が、目の端に時々見えていた。
これを俺は、合計何度繰り返したのだろう。
疲れたよ。紐魔法はとても辛い。
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