第69話
その後、二度目だから多少面倒くさくなっていたが、必死に下拵えに走る。手紙も出したし、その他の準備も怠らなかった。後で後悔はしたくない。
ゲームでありがちな失敗。あれを取り忘れていたとか。あそこで話しかけなければいけなかったとかで、無駄に戻りたくない。
今度は即殺す。俺を認識させる必要はない。
音のない世界でマカンの後ろに立つ。
ちょいちょいと彼を小突くが動きはない。微動だにしない。温度のない、硬質なプラスチックだった。それが証だ。
こいつは完全に止まっている。俺の世界、俺の支配下にいる。
少しだけほっとする。
男なんか触りたくもないが、べとべとと触り、異物を探す。全角度から眺め、こいつの秘密を探す。何かしらの手掛かりが欲しかった。
でも、何も見つける事はできなかった。
切り取られた表情を詳しく見るが、変態そのものだった。
愉悦に歪んだ笑顔。アリアーデに絡みつく視線。
俺に警戒している様子は一切見られない。こいつが前回を体験して、ここに戻っている痕跡はない。
必要充分、それ以上に時間をかけて観察した。
遠く上空から。奴が出てきた岩肌の死角も。首が切れて倒れたままの村娘も。
これ以上時を停めていても、何の情報も得られない。そう確信するまで調べた。
じゃあ、始めようか。
だが、先に進もうとすると、恐怖が胸を突いた。
なにが、魔法使いを先に倒しておけばいいだ。簡単に考えていた自分を笑う。
不明な攻撃で足をいきなり切り飛ばされたのだ。心音が上がる。
奴はあの時言った。いきなり殺しちゃもったいない。
俺に後悔する時間、命乞いの隙を与えるために俺の足を刈った。その気なら頭を吹っ飛ばされていたかも知れないのだ。
あれで終わりだった可能性に恐怖する。
俺は死に、俺を信じたアリアーデは絶望する。
突然、繋がりを立たれた兵士たちは自由落下し、地面に激突する。
最悪だ。
自身に危険が迫ったら、何かあったら、即座に戻る。やり直す。
その時、躊躇しないように完璧にシミュレーションして、息をつく。
今回は登場シーンで声をかけない。残念だがアリアーデの笑顔も見ない。
彼女は、結果を出せば納得してくれるはずだ。
登場のシーンも、アリアーデとのアイコンタクトも無しだ。いきなり行く。
『解除』
『超速』
時間を動かすと同時に超速を唱え、マカンの首を刈り取った。
マカンにしてみれば全く突然の出来事だ。突然現れた俺に首を刈られる。
アリアーデも相当驚いたはず。でも彼女に目を向けてる暇はない。
地面に落ちる前に、彼の頭部が光に包まれる。質量を無くし、吸い寄せられるように胴体に繋がっていく。
パーフェクトリカバリーだ。
一瞬だった。これは間違いなく自動で放たれている。
彼は、呪文をこの場で構築してはいない。
大気中のマナを変化させ、それに魔力を送り込むのが普通の魔法だが、これは違かった。変化し終わったマナごと現れ、そのまま発動する。
しかも、自動的に放つ仕組みを持っている。
彼は、俺より上の能力者だった!
叫び出したかったが堪える。
一つだけわかった事がある。今のマカンに魔法を異次元収納から出す暇はなかった。
あれは異次元収納から出したわけじゃない。
『ファイア』
俺は制限することなくファイアを放った。猛烈な業火だ。でも実は初歩魔法なので、二、三秒で発動できる。超速中なのでもっと早い。
だが、突然目の前に光の盾が現れ、魔法を反射した。
超速が掛かっていなければ、俺が消し炭になるところだった。間一髪でかわす。体中が熱気に包まれる。熱い。髪が焦げる。相当な火傷を負った。
耐火性能が少しあるシャツも黒焦げになった。
目を向ける。フードをなくしたローブから、首が繋がったマカンが俺に手を向ける。
詠唱に時間のかからない、単発の小魔法が構築される。その暇を奴に与えてしまった。
やられる。
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