第54話

「まあ…エナンはボチボチ城に戻ってくる頃かも知れないぞ?」

 経過時間を鑑みて俺は呟く。


「戻っている暇はない。リッチランは侵攻を続けている」

 クラウンが口を挟む。彼は先程からアリアーデのすぐ後ろで、俺が狼藉を働かぬよう睨みを効かせていた。

 まーそうだね。


「他にはいないのか、弓が上手いとか、初級魔法でもいいぞ?」

 アリアーデが呟く。

「兄上なら…」

 兄ちゃんね。死んじゃったと思うし、いない奴の情報は無駄だ。


「なんだよ、領地任されてるはずなのにしけてんな?」


「ふっ小僧、我々を侮るな。ミドウの、特にシカランジの騎兵は辺境最強だ。

 我々は王国近衛騎士団の流れを正当に汲んでおるのだぞ。

 はっはっは、一騎当千と言われたものよ!」


 クラウンがどや顔をする。なにを偉そうに、この髭じいが。守護対象の乙女に一撃加えたくせによく言う。もうボケてんのか。


 行け!マジで一騎当千なら、一人で全部倒して来い。


 まあ、一応聞いておく。

「へえー。なんで王国近衛の?」


「ディランド様は、今はこのような辺境に追いやられておるが、先王の弟の血筋、近衛がついてくるのは至極当たり前のことよ」


 彼はもう、顎が大分上がっている。鼻高々だ。

 でも先王の弟の血筋って、息子って感じ?息子ったって家督を継げる長男でなければ、ほぼ意味ないし。


 更に先王のだろ?先王の息子が王位継いだとしても伯父。現王の伯父の息子。確かに血筋は良いんだろうが、そのくらいのランクなら沢山いそうだけど。


 それに数爵制で、それはどうなんだ。



 この世界の貴族制度は少し変わっている。公爵を筆頭としたような爵位はない。

 数字なのだ。一爵より二爵が偉いというシステムだ。

 この数は、王や国に貢献した者に随時加算されていく。聞いたところによると今最上級の爵位は百七十二爵とか。ビッグだ。


 これは実力のない、王や国にとって役に立たない側近を、いつまでものさばらせない為だとか。

 良くは知らないのだが、確かに落ちぶれた名ばかり公爵とかってうざいだろう。与えた爵位を取り上げるのは難しいようだ。

 なので、今オキニの貴族に数を足して、ランクを上げてやるのではないだろうか。


 三桁は特別で、二桁は上級、一桁は駆け出しと言われているらしい。序列はきっちり数字で現れる。クールな数字の世界だ。


 何でもこの制度のお陰で、貴族の皆さんは一つでも数字を増やすために日々、王族に媚び売って頑張っているとか。


 騎士は騎士爵って特別なものがあるらしいが、まあ知らん。とにかく、近衛騎士っていったら王宮の番人だ。エリートなのだろう。頼りにしよう。



 髭じいは続ける。

「アリアーデ様が気まぐれで相手しておるが、本来おまえなどが口を利けるお方ではないのだぞ」

 はいはい、髭じいさん。暴行魔のくせに。おまえが偉いわけじゃないぞ。


「よせクラウン。最早、過去の話だ。それに…」

 アリアーデが何か語ろうとしたところで、何か声が聞こえて来た。


「アリアーデ様―!」

 遠くから男の雄たけびが聞こえてくる。

 なんと、噂のエナンだった。


 丘へ上がる脇道から本道に向かう所だった。エナンが駆け上がってくる。だが、エナンだけではなかった。


 彼は、後ろに多数の騎馬を引き連れていた。


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