第53話
「しかし、アリアーデ様はすごい力っすね?」
「トキオ、どうした、口の利き方が…」
「おしっこ漏らした家臣を素手で助ける人間には、俺だって敬意を払うよ?」
「お前という奴は…」
アリアーデは先程から笑ってはいるが、やはりごく小さなものだ。口調は淡々としたものだし、遠くから見たら澄ましているようにしか見えないだろう。
俺が時々見る天上の笑顔は、彼女にとって破顔したと言っていいレベルなのだろう。
俺はずっと気になっていたことを尋ねる。
「あのアリアーデの力は、恩恵なのか?」
「ああ」
恩恵と才は本来別物だけど、俺の時空魔法は恩恵とも才ともとれる。アリアーデは才ならパラディンとか似合いそうだな。もっと上級の騎士ってあるのかな?
どんな恩恵だろう。聖なる力?人馬一体。騎士武器威力倍増とかあんのかな?
「お前も能力を明かしたのだ。私も明かそう。私の恩恵は剛力だ」
いや、ごめん。俺は明かしていない。
「えっ?」
「私の持つ恩恵は…剛力だ」
「……」
「その反応…中央でもよく笑われたものだ。城ではなく、鉱山に行けとな」
「えー、剛力…」
この華奢な少女が剛力。パラディンとかの才じゃなくて剛力!
「少し恥ずかしいのだが、剛力に付帯するように、頑健も備わっている。大岩持ち上げて、手の皮が傷んでは意味が…ないからな」
「はあ…」
「しかし紐の魔導士、聞いたことないが。それは恩恵なのか。そうか、だから戒めを一瞬で解けたのだな」
俺の反応に照れたのか、アリアーデは話を変えた。
妖精が、剛力で頑健ってまさにミスマッチだけど、だから良いかも。
推すよ。それにパーティ組んだ時、俺との相性が良いと思う。そんな未来があったらいいな。
そうかあの時、ポーションで治らない程の負傷を負っていて、あれだけ動けたのはその恩恵のお陰なのか。
「あれ、縄が消えたように見えたのはどういうことだ?」
アリアーデがいらんことに気付いたので、俺は話を逸らす。
「そんなことより、手勢だ。他に変わった才とか、恩恵持ちはいるか?」
「エナンだな。恩恵の猪突がある。そういえばエナンはどこに…」
「あいつは村でまだ絵をかかせているだろうよ」
「何故、絵を…」
「おまえが村人を連れて来いとか言うから、城から向こうの集落で爺さんに絵を描かせていたぞ」
アリアーデはハッとしていた。途端に元気がなくなる。
「言い訳のように聞こえるだろうが、彼に害をなす気はもうなかった。
あの時は、ただ…お前に一泡吹かせたかったのだ」
項垂れた様子を後ろから眺める。俺はそこを攻める気はなかった。すでに済んだ話だ。彼女は、俺に何もせず解放してる。俺はおまえを知っているんだ。
「ああ、知ってるよ。俺は見てきたからな」
その時、馬群は緑の明るい森を進んでいた。アリアーデは振り返る。体が柔らかいな。後ろに乗っている俺から、その胸が見えるほど体を向ける。
「お前は不思議なことを言う。随分、心が広いのだな」
「くっくっく」
「何故、笑う」
このお嬢は何もわかってないな。純粋な娘だ。
本当のことを言っただけだ。
俺の心はめっちゃ小さいよ。それに俺がどれだけ性格悪いのか知らない。
まあいいさ。一生懸命否定するまでもない。
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