第52話
森の裂け目から空が見える。道の両側に分かれ、上空を覆っている。
弓兵を倒した道からは、サウザンレイクに道は繋がっていない。この山の、頂上に向かってしまうようだ。
なので一行は、先程の峠の広場に向けて引き返していた。
俺はまた、アリアーデの馬に乗っている。評価も上がったようだし、密着したり、セクハラしたいとムラムラしたが、平静を保っていた。
この娘は、気丈にも凛とした様子を見せてはいるが、今日、父親と兄を失っているのだ。性格の悪い俺だがそのくらいの事は考えられる。
というか思い出した。元大人として恥ずかしい。
「トキオ、お前が皆を紐で救ってくれたのだな。
礼を言おう。プリキスとコロイは、彼らは幼馴染なのだ。出先の森で魔物に襲われてな、あれは大変だった」
それは聞いたことある。
「あいつら、気絶しちまったんだろ?」
「…そうだな」
彼女は初めて話すだろう話を、俺に知られていて驚いた風だった。
「あいつら、女子の前で失禁した過去があるくせに、よく偉そうに出来るよな?」
「それは…どこで聞いたのだ。まさか夢の中の私…からか」
「そうだよ。大体、子供が魔物見て気絶したら小便垂れるよね」
「いや…それは、本当に私が…」
アリアーデは繊細だ。庇っているんだな、小便垂れを。斜め後ろから彼女を見る。銀髪に隠れた白い頬がちらちら見える。
「しかし、そんな尿まみれのガキを二匹も引きずるなんて。匂っただろうに、大変だったな。何歳の時だ?」
「八歳だったと…」
八歳かあ。アリアーデは天使みたいだったのだろう。
この娘が光に包まれて森を歩いていたら、天使に間違いないよ。それが、両手に尿まみれの少年を引きずって。良い絵だねえ。
「奴らは何歳だったの?」
「プリキスは三つ上、コロイは二つ年上だったかな」
十一と十。八歳の天使が十一と十の尿まみれを!
「それ二人も、どうやって、引きずったん?」
「こう、わきに抱えてな。二人とも私より、背があったから足を引きずってしまって」
「えええ、それじゃ尿まみれのボディと密着しちゃうじゃん?」
「いや…待て、私はその…下の話は否定しているのだが。そのような事を、私が明かす訳がない」
おお、口が固いことに自信があるようだ。なんて良い子なんだよ。
「でもさ、その手が覚えるよね、冷たくなった尿の感触。布地が固くなって随分つかみにくかったね?」
アリアーデは、過去に思いを馳せて、自らの手を見た。その横顔はもう、濡れた布に触れた事実を語っていた。
「いや、トキオ彼らは失禁など…」
「いや、もう充分だ」
「ふふっ、なんなのだお前は。今はそのような会話をしている場合か」
アリアーデの表情は柔らかいものだった。
場合だよ。想像するならディティールに拘らないと。俺は目を閉じる。幼き日の彼女の必死な様が見える。
ああ、美だ。これは美だな。
尿を漏らした小僧を助けてるってのが、素晴らしい。大判の絵画にして教会とかに飾るべきだ。
万が一にも、俺がこの国で権力を得たら描かせよう。
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