第51話
時間は動き出す。敵は驚愕して狼狽えていた。
それはそうだ。確実に仕留めたと思った矢に、紐がかかって木に巻き付いたり。矢筒の矢が結ばれていたり。
射た矢が突然、布の塊に当たって落ちたら驚くに決まっている。
カリーレ達は間抜けな奴らだが、その隙を逃しはしなかった。
俺は事後、カリーレの前で服を回収した。服を投げておまえの命を救ったのは俺だと説明してやったが、おまえは馬鹿なのかって顔で見られただけだった。
仕方ない。時を止められるのは秘密なんだ。
これがばれて、いいことはないと思っている。対策を取られて攻撃されたらたまらない。無敵のスキルだと思っているが、どんな弱点があるかわからない。
よほど信用した相手でなければ話すことはない。というか、一生話す気はない。
俺の状況は悪くなったが、アリアーデ達には良い結果だ。弓兵を始末して騒ぎも起きなかった。敵兵に気付かれた様子もない。
「ほら、どうだ、無事に任務達成できたじゃないか。おまえの予言は外れたな」
カリーレが、モジャモジャの頭を兜に収め、どや顔を向ける。
失敗だったな。もうちょっと考えて語ればよかった。
俺のいう事を聞かないと死ぬぐらいに。
やり直すわけにはいかないし。必死で助けた結果が、ネックになるとは救われない。
これだと、この先の助言も聞いてくれなくなるだろうし、もしかすると同行することもままならなくなる。
困ったなあ。と思っていると、アリアーデの幼馴染からフォローが入った。
幼き頃、魔物の前で気絶し、アリアーデに助けられた男、プリキスがつぶやいた。
「私は矢を射られました。まずいタイミングでした。射線に入っていた。
完全にやられたと思いました。
でも飛んで来た矢は、何故か紐に引っかかって目の前で回った。撃った奴も驚いてました。そして次の矢をつがえようとして、もたもたしていた。
私は走りました。恐れなかった。一度死んだと思ったから。
なんかとか敵を倒し、奴の矢筒を見ると、そこにも紐が絡まっていた」
プリキスは真剣な顔を俺に向ける。
周りは、話の成り行きを見守っていた。プリキスが何か重大な事に気が付いたようだ。そんな顔をしていた。
「もしやトキオ殿は、紐の魔術を使うのでは?」
ちげーよ!バカ。そんなの聞いた事があるのか!
いや、待てよ。いいね。いいんじゃないか。俺は大分紐を使う。聞いたことないけどそれで行こう。
「よくわかったな。そうだ、俺は紐の魔道士。おまえら余分な紐はあるか?
手持ちが足りなくなっている」
ざわざわと皆、相談モードだ。
「聞いたことないぞ?」
「だが、時々特異な恩恵を持つ奴が現れる」
「そういう奴は伝説級の強さを持つものだぞ」
「それが、たかだか紐を操るって?」
その場に残っていたカリーレが呟く。
「紐の魔法…おまえ、俺には服を投げたんだろう?」
「服も、元々紐からできてるだろう。
紐が足りなくて、おまえを助けるためにな…」
苦しいかな?
「なるほど!」
横にいたプリキスは手を打った。
カリーレは、モジャ頭に似合わない、真剣なまなざしを俺に向けている。
そうだ、俺はおまえの命の恩人だ。感謝しろ。
クラウンは呼びかける。
「紐だ!術師殿は紐を所望だ。弓で射られたくなくば、紐を集めよ!」
バカだろおまえら。
まあ、この世界は…ファンタジーへの許容量が大きいからな。
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