第50話
俺は時の停まった世界を進む。
かさかさの落ち葉を踏んでも音がしない。
怯え顔のカリーレの、股間を蹴ってから弓兵に近づく。
いや、なんのダメージも与えられない事はわかっているが、俺はこれをやらずにいられない。
こいつらには、まだ二十分ほどの出来事だが、俺はもう二時間ほどこの時間に停滞させられているんだ。マジでイライラする。
おう、危ねえ!
矢が空中で止まっている。これを叩き落したり、ベクトルを変えることはできない。がっちり空間に固定されている。
矢の飛ぶ方向を見る。
そこにはプリキスがいる。彼はやっちまった。そんな顔で木の陰に逃げ込もうと体勢が動いている。放っておけば間違いなく当たるな。脇腹辺りだろうか。
俺もついて来ていたし、違うことすると、やっぱり何か少し変わる。
俺は予め、異次元収納から紐を取り出していた。適当な枝に結んでから空中に固定された矢にも結ぶ。これでおK。
コロイを射ただろう敵兵の方に行く。こいつはまだ矢が弓を離れていなかった。
これも紐を結ぶ。
敵兵の顔を見る。やっぱり口は引き結ばれている。弓を引き絞ったり、放つとき大概の人は口を閉じている。開けていれば、もっとつまらないものを詰めることで、この先の戦闘を妨害できるのだが。
見開いてる目の方を狙う手もあるが、資源は限られている。今回取り出しておいたのは紐だけだ。仕方ないので矢筒の矢を結ぶ。
紐を巻いても、個々の矢同士の、開いている隙間を詰めることはできない。できないが、射手が矢を取り出すのに少々手間取ることは間違いないだろう。
二人が一瞬で射殺されることはなくなったが、これでこいつらは勝てるのかな?
まあ、なんとかなるだろう。俺は軽い気持ちで次に行く。小枝に引っかかって転びそうになる。ホント微動だにしないからね。
三人目の様子を見て、驚いた。
こいつも矢を既に射っていた。方向はカリーレ。これも当たるコースに見えた。
俺がついてきて、カリーレの位置が変わったのか、彼は死角にいるつもりだが、三人目の弓兵は横方向に進出して来ていた。
空中に固定された矢は樹間から離れていた。紐の長さが足りない。他の余分を回収して再構成しても全然足りない。
前世と違ってこの世界の紐はお高い。百円で何十メートルも買えないのだ。
やっべー、時を止められるのはあと六回。俺の命もかかった世界で、一回たりとも無駄にはできない。
こいつを救うには、もう一度やり直して時を止めるしかないのか。
現場にある物は動かせない。一切移動して利用する事はできないんだ。
ちなみに、時をやり直したからといって時間停止の回数はリセットされない。きっちり使った数が減ったままからのスタートだ。
俺が時を停めた事実は消えないようだ。意地が悪い仕様だ。
ポケットを探っていて、ふと気が付いた。そうだ、服は使える。
俺は服を脱いで矢に被せる。先端が突き抜けないようにしっかりと、袖を矢軸に結んだ。これで多分当たらないだろう。
俺はきっちり位置を図って、敵の死角に入り、時を動かした。
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