第43話
城の前の別れからの、アリアーデとの再会シーンをどんな感じにするか決めてなかった。アレで行くことにした。
ヒーロー的なヤツだ。突然行く手に立ちふさがる。
斜め四五度で立ち。彼らに囲まれてから、決めに決めてから話しかけるのだ。こういうのには間が大切だぞ。気をつけよう。
『お前は!』
『………』
『どうしてここに!』
『何者だ!』
『ふっふっふ…』
こんな感じか。
街道の坂から、上部しか見えなかった騎馬が、足元まではっきり見えるようになる。蹄を鳴らし、アリアーデらが迫って来る。
残念。彼女が先頭ではないな。
あれ?
うわっ、止まらないよ!
俺は咄嗟に横の岩に飛びついた。そこでやっと彼ら馬を止める。
砂煙が舞う。彼らは、珍しい花でも見つけた様子だ。逃げ遅れた村人だとでも思ったか?
やっと俺だと認識する。残念だ。そんなに意識されていないようだ。クソがもうちょっとで超速使うとこだったぞ。
一歩、馬を戻すアリアーデ。声はない。驚きで少し目が開いているが、日中なので瞳孔は小さい。横に並んだ白髭の兵士が剣に手をかける。
「力を貸してやるよ、アリアーデ」
岩に張り付いていては決まらないセリフだが、ニヒルな感じは出せたはずだ。
「貴様は――!」
「控えろ、クラウン。この男には最初から余裕があった。
いつでも逃れられたのだ。
場合によっては、我らを屠ることすら容易だったのかも知れぬ…」
「そんな…」
アリアーデは馬ごと俺の方を向く。
下方に向けられた銀の瞳は、天上のもののように怜悧だ。俺の全てを見透かすように捉えている。
だが、知っているのは俺だ。間抜けな絵を是正するため岩から降りた。
「何故だ、お前にはずいぶんと嫌われていたと思うが?」
「俺は自由な国の人だからな。気が向いたんだ」
俺は小さな攻撃を加えた。
彼女の表情がほんの少し変化する。といっても、二ミリ程、目が開いただけだ。それもすぐに戻る。
「…お前は、何ができる」
「俺には予知能力がある。白日夢のように夢を見るんだよ」
「予知……」
アリアーデの表情は読めない。こうなると正に人形のようだ。
兵士たちは馬鹿言うなと、忌々し気に俺を睨む。ここで時間をとると敵前線に不審に思われる。俺は構わず情報を先に渡す。
「この先に斥候が潜んだ藪がある。その先、あの岩塊を越えると敵兵三人と村娘が一人いる。村娘は少し怪しいが、本当の素性はわからない」
俺はそちらに向けて指を刺す。
「だが、あの岩の奥の所には槍兵が七人潜んでいる。崖の上には弓兵が三人、槍兵を越えた所に木が一本生えているが、そこには縄が仕掛けられている。
木の裏の藪に伏兵がいる」
俺はアリアーデだけに目を向けて話す。
「そして、その先少し行ったところに騎兵が十五騎潜んでいる。
それともう一つ。
どうやら敵さんは、おまえらがここを通ることを知っているぞ?」
言うことは言った。信じる、信じないは勝手だ。
俺は、アリアーデを救ってやろうと思っているだけだ。信じないで先に進み、何人か死んでも構わない。アリアーデの危機にだけ対応すればいい。
俺が助けてやろうと思ったのは彼女だけだ。
「見てきたように言うのだな。それだけ具体的だと、言い逃れできぬぞ」
「そうだな、アリアーデ」
彼女の瞳に怒りは見えなかった。むしろ興味深そうに見ていた。
「お前は…私を知っておるようだな。だが私は知らぬ。名を聞いてもよいか」
「俺はトキオだよ」
「アリアーデ様、こんな奴に耳を貸してはなりませぬ!馬鹿な道化と思っておりましたが、先ほど消えたおかしな術を鑑みると、人を惑わす魔物の類かと」
良いね。俺を魔物と思っていて。実はアレだと思ってくれれば、後が楽だ。
アリアーデは、進言する兵士に目も向けず体を傾けた。黒馬が主人の意を汲み、向きを変える。
「下らん。話し合い不要だ。確かめればわかる。トキオ、案内して貰おう」
「おう!」
俺も向きを変え、踏み出す。
「お前達はここで待て」
「アリアーデ様おやめください!」「お待ち下さい!」「無茶はおやめ下さい」
兵士らが、アリアーデを制止しようと一斉に馬を動かし、進路を閉じようとする。
彼女は、後方に控えていたモジャ兵士カリーレの方に手を伸ばした。
彼は、肩に担いでいた巨大な戦槌をアリアーデに渡す。スムーズに渡したよう見えたが彼の表情は赤く染まり、歯を食いしばっていた。相当の重さがあるようだ。
アリアーデは、それを片手でくるりと回す。荷重の移動に耐えるため黒馬が足を踏ん張るのが伝わる。彼女はその戦槌で大地を突いた。
上下の歯が当たるほどの振動があった。樹上の小鳥が飛び立ち、木の葉がパラパラと落ちる。
兵士らは慌てて道を開いた。
すげーな。眉一つ動かさずってヤツだ。前回にも見てるけど、その力は一体?
「こ奴の言ったことに、備えておけ」
アリアーデは軽々と戦槌を返して肩にかけると、馬を操り駆けだした。
「来い、トキオ!」
若干、呆気にとられたが俺は追いかけた。
馬上の姫を走って追う。従者みたいで良い。
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