第21話



 「アリアーデ様!」

 イケメンが、顔をあげ、まだ涙に潤んだ青い瞳を向ける。


 「先程は大変なご無礼を…。悪気はなかったのです。

 このエナン、死んでお詫びします。

 死んでお詫び、したい…したいのですが、私の命はアリアーデ様の物。

 勝手に扱うのは…大逆に当たるのでは…」


 エナンはおバカ丸出しの口上を続けるが、アリアーデ様は意に返さなかった。

 赤茶でモジャモジャ髪の兵士に目を向け、口を開く。

 「カリーレ」

 「はっ!」


 モジャモジャの兵は牢の格子をガシャンと蹴り付け、イケメンの言葉を止めた。

 「エナン、アリアーデ様のお赦しを頂いている。もう出ろ」


 「ア、アリアーデ様、ありがとうございます!

 このエナン、アリアーデ様の寛大な御慈悲を忘れません。


 この先何があろうと、私は貴女様のお身体をお守りしてみせます!

 あのような失敗は二度と!

 誰にも二度と!お身体に触らせたりは…」



 「エナン、お前はなるべく黙っていなさい」

 「はっ!」


 その時の彼女の目線は、ギロリ。そんな擬音が似合うような視線だった。表情をまるで変えず視線だけで制した。

 その部分だけ動画にしたアニメのようだ。


 エナンが、言われたことを本当に理解したのかはわからないが、命令には素早く、イエスで答えるのが、彼は正しいと考えているようだ。返事は瞬間に出ていた。


 俺はホッとした。これでエタニティリザーブを使わずに済みそうだ。使わなくて良かった。大きなお世話だった。

 ニヤニヤしていると、いつのまにかアリアーデ様の銀色の眼は俺に固定されていた。


 ガチャガチャと鍵音が響き、エナンが房を出る。アリアーデ様に向けて口を開けかけたが、すぐ閉じた。黙っていろと言われたのを思い出したようだ。


 「もう、下がりなさい。あなた達も行ってよい」

 「アリアーデ様、それは…」

 モジャ髪カリーレが声をあげる。


 エナンは口を開けただけ。命令を守った。偉いぞ、エナン。ワン公。


 アリアーデ様は、反論せず手を払う。行けというわけだ。


 カリーレは、もう一人の兵士と視線を合わせ、互いに頷くと、そこに無言で留まろうとするエナンを両側から捕まえて、引きずるように牢屋を後にした。


 来た来たー!

 ディランド家の娘は、胸のスイッチを押されると、その者と婚姻せねばならない家訓、ってな展開だったら笑えるのだが。

 

 断るよ。


 あまり自信ないけど。

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