第20話


 イケメン兵士エナン…。

 よく見ると、あんまりイケメンじゃないしな。


 おバカな表情が、素養を台無しにしている奴だった。

 しょうがないな、やり直すかな。


 時空の魔法、リザーブ。


 俺は、任意の時点を留め置くことができる。そしてそこに任意で戻れる。これが俺の最大のチートだ。


 貴族相手に、恐れを知らない振る舞いも、契約魔法に縛られたガーの首の心配も、デッキ達とダンジョンでの恐れの無さも、この能力があってこそだ。


 リザーブには二種類ある。

 さっき、アリアーデ様に狼藉を働く前に発動させたのがショートリザーブ。

 これは時の固定後、六十分以内なら何度でもその時点に戻れる。


 もう一つがエタニティリザーブ。これには時間制限が無い。どれだけ時が経ってもリザーブしたポイントに戻れる。

 だが、そこには一度だけしか戻れない。再度のやり直しは効かない。もう一度同じ時点には戻れないんだ。新たに、エタニティリザーブポイントを作らねばならない。


 俺は予期せず死亡した場合、エタニティリザーブを刻んだポイントに自動で戻る。

 ショートには時間内であれば、任意で何度でも戻れるが自動では戻れない。死んだらエタニティリザーブに戻る。


 俺は、奴隷の時に予期せず死んだ。その時、これが発動し、初めてこの仕組みを知ったんだ。


 多分、エタニティリザーブを作っていない所で、予期せず死亡すると終わる。

 ゲームオーバーだ。

 終わるのだろう。実際試したことはない。

 試せるわけもない。

 セーブに、異常に厳しいゲームのような仕様だ。



 まあ、死んでリバースした所で、新たにエタニティリザーブを作れば何も問題はない。俺が無敵なことに変わりはない。

 ゲームでは、よく忘れちゃうトコだが今回は忘れないだろう。


 前世で死んだ時に、時間さえ止められたら、そんなことを強く思ったから…とかなのだろうか、神の悪戯なのかわからないが、この世界では知るものがいない秘密の魔法だ。


 最強の能力だと思うが、ちゃんとゲームバランスを考えてあるようだ。

 エタニティリザーブでは、リザーブもリバースも、俺の全魔量を消費する。全魔量を消費すると人は昏睡する。とてつもなく無防備になる。

 だからあまり頻繁には、エタニティリザーブポイントは更新できない。


 今のポイントは、誰も近寄らない高山にシェルターを設置して更新していた。

 安心ポイントだ。あそこなら今跳んでも危険は少ないはず。丸一日気を失っていても、誰も近寄らないだろう。新たにエタニティリザーブを作り直す際にも問題はないはずだ。


 「さて…と」

 やってやろうかと思ったが、エタニティリザーブを発動するには勇気がいる。

 俺の思う最強たる由縁が、下手うって死んでもやり直し出来ることだ。


 前述の通り、その場でリザーブを作り直せばいい。いいのだが、必ず邪魔が入らないとは限らないだろう。


 安全と思われる、人気の無い山岳地帯だが、突然に火山が噴火するかもだし、隕石が降って来るかもしれない。


 死んで戻って、すぐにリザーブする。そこで死んだら?

 そこで死んだら終わりなのだ。

 自動で戻って、すぐに死ぬことになる。魔力もないんだ、なにも対応できない。できないだろう。


 わかっています。

 いつ死ぬかわからない。それが普通のことですよね。

 皆そうして生きているのです。わかっているけど俺は怖いのだ。


 もう、ショートのタイムリミットを過ぎている。エナンを、この阿呆を、救ってやるにはこれしかないのだが…。


 あの山でエタニティリザーブを作って、それからだってそれなりの冒険と危機を乗り越えてきているし、時を戻すったって、適当では同じようにはならないのだ。

 それを調整して、ここに同じように辿り着くのはとても難儀だ。


 だが同じように辿らないと、同じシーンには帰れない。少しでも変えれば大分変わってしまう世界なんだ。

 それに、やり直しをして、揉め事を回避すると、アリアーデやエナンをからかった思い出も、全て無かった事になってしまう。


 よくわからないが、俺はそれを失いたくなかった。

 うん、イケメンの恋心なんかどうでもいいか。

 やっぱりやめよう。怖いし。エナンなんかどうでもいいだろ。


 本当にいい性格だ。



 前世でも、つい最近まででも、明日の命になんの保証もないのに、怯えず生きてきた事が信じられない自分がいる。


 ちょっと臆病すぎるとは思うが、恐怖を感じるのだから仕方ない。そんな考えを、行ったり来たりさせていると、階段を降りる、複数の固い靴音が響いて来る。


 兵士を二人引き連れた、アリアーデ様が登場だ。

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