第17話
彼らは絶句してる。聞き間違いとでも思っているのだろう。
俺は、若干下を向きため息をついた。
そして大きく息を吸い、再度アリアーデ様に目を向ける。
「ばーーーーーか!」
「「………」」
一同が、俺の意表をついた言葉に動きを止めている。
その隙に、俺はゆっくり立ち上がり、膝の泥を払う。
ピュアな自分キャンペーン、テイクツーだ。
耳の横に手をひらひらさせ、腰をくねらせ、小馬鹿にする効果をあげる。
「あほ~レロレロレロ」
舌を出してからかうのも忘れない。
「き…貴様、気でも狂ったのか?」
驚きのあまりか、エナンの言葉は呟くようだった。
「タコ~」
ポリ塩化ビニルで、できているのかと思われるほど固定されていたアリアーデ様の表情に戸惑いの色が浮かぶ。だが、未だ言葉はない。
エナンは何とか状況がつかめてきたようだ。目を爛々と光らせる。
「貴様は、誰に口を聞いてるつもりだー!」
「おまえだよ!善人をいたぶって、それが間違いである可能性が出たのに、一ミリも心を動かさない、クソビッチのお・ま・え・に言ってるんだよ!」
俺はイケメンを通り越して、アリアーデ様に目を向けていた。貴族に対しての直球の暴言だけど全然びびってなかった。
良いね!これがありのままの自分。なんか生き生きしている気がしてきた。
「貴様――――――――!」
イケメンがいきなり剣を抜いた。
俺は、ゆっくり手を前に出してそれを制する。
「ちょっと待て、エナン。これだけは見ておけ」
事ありげに、声に真剣味を持たせる。
いざとなったら俺は避けられるんだ。その余裕が奴を止めた。
いきなり呼び捨てにされ、更に目を剥くエナンを、俺は新たな動きを見せることで制する。
腰のポーチからポーションを取り出し、倒れたおっさんにドボドボかける。
癒しの大きな光が見える。死んでいたら光らない。まだ生きている。
俺は初級の治療魔法、治癒を使う事もできたが、このポーションの方が格上だし、なるべく自身の手の内を晒したくなかった。
「なにを貴様、勝手に…」
俺はエナンの言葉を手で制した。そしてアリアーデ様に視線を送る。
彼女の白いブラウスの膨らみを凝視する。
睨むように見る。
自然と唾を飲んでしまった。
我ながらダッサ。
正確に位置を測り、狙いを定める。
アリアーデ様は、なんなのかと怪訝な表情を返してくる。
この時代の高級な生地が、どんな素材なのかはまだ知らないが、酒場の給仕のお姉ちゃんが身につける布とはまるで質感が違かった。
くすみなく、毛羽立ち無く、真っ白の生地が見事な双丘の陰影を作り出していた。
その先端を想像する。
狙いは、そのトップオブピークだ。
服地のしわにより強調されたそこを狙う。
ミサイルの先端のごとく、とがった胸の先を狙う。
ごく自然な動作で行う。危険を、危機を感じさせてはならない。
殺意を消す。道端の地蔵になった気持ちになる。
俺はそれを、インタホンのボタンを押すように、ソフトに押した。
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