第15話


 とっくに気絶して、反応しないおっさんへの制裁は続いた。


 彼は、まるで受け身が取れないんだ。生命にかかわる。しつこいな、死んじゃうだろ?

 

 イケメン兵士は鬼の形相だ。そんな怒るところか?

 怒るかな。痴漢と間違えているんだからな…。


 これは止めてやらねば…いや、今更出て行って事情を説明しても無駄だな。間違いを指摘したところで奴らは絶対認めない。

 俺も強姦魔みたく言われてボコられる事になるだろう。

 神々しいアリアーデ様に、鞭打たれるのはちょっと絵だが、男に蹴りはごめんだ。


 「クソが、アリアーデ様に何を!貴様、何をしようとした!一体何を!」

 イケメン兵士は甘いマスクを崩し、鼻の穴を大分膨らませている。こいつ、何を何をって、おまえこそ、一体どんな想像してるんだよ?


 「このまま谷底に蹴り落としてくれる。地獄に堕ちるがいい!」


 「待てエナン。それでは事故死として扱われてしまうだろう。それでは、こ奴の罪は清算できない。

 警吏に引き渡し、婦女子に暴行を働いた者として罪を償わせよ」


 「ア、アリアーデ様に?

 アリアーデ様に暴行を働いたと?民衆にしゅ、周知させるのですか?」

 「…婦女子と言っておるであろう」


 「アリアーデ様のような聖少女を襲ったのに、普通の婦女子と紹介して良いのですか?

 銀の娘を、光の乙女を襲ったのです。死刑以上の厳罰が、妥当と思いますが」


 「お前は何を言っている。その、聖少女とかいうのをやめろ」

 「じゃあ少女を襲ったことにしましょう、絶世の美少女を!

 神が愛でた、光の乙女に、銀の娘に汚れた手で触れた。こいつは許されざる大罪を犯したのです!

 こいつは美少女を犯した下司です!こいつの一族郎党、全ての連なる者が中傷される。きっと家族は皆、こいつを恨むでしょう。相応しい罰です!」


 「…待て、犯してはいないだろう」

 「触りました!アリアーデ様の太ももに。犯しました!」


 「エナン…」

 「もし、アリアーデ様でなかったら、犯されていたでしょう。年端のいかない少女に、大人の男に抵抗する術はありません!

 犯ったでしょう。犯りました。こいつは犯った男です!」


 言葉ごとに距離を詰めてくる、エナンの狂ったような熱情に、さすがのアリアーデ様も気圧されたようだ。少しだけ表情があった。

 「……そうだな」

 「こいつは、変態の少女恋野郎です!」


 『えーーーーーー?』

 少女恋野郎とは、この世界のロリコンに対する蔑称である。

 マジかよ…。


 俺は、おっさんの家族を思い浮かべる。

 よくいるタイプだから簡単だ。地味なおばさんと、更に地味な子供を二人ほど思い浮かべる。可もなく不可もない、ふわふわとした平和な食卓が想像される。


 『あんまりだろ…』


 人助けのために出て行ったおっさんの最後が、年端もいかない少女を襲った変態って。あんまりだろ。

 

 仕方ない。どうやら、俺の最大の秘密を見せる時が来たようだ。

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