第6話



 黒く深い森の中に、細い街道がどこまでも続いていた。辺りに人気はない。


 俺はそこでやっと足を止める。鳥はまだ鳴いていたが、白い砂地の道が宵闇に少し青く染まっていた。もう日は落ちている。


 俺は、ちょっと大きな犬小屋みたいな建物を、異次元収納にしまってある。自作なので出来はひどいが、この世界の旅人のように洞窟や木の洞、露天で野宿するより俄然快適だ。


 街道から入った藪の中を少し整地して、ポンと取り出す。我が家完成だ。街道に向けた方には窓がない。明かりで野盗の類に嗅ぎつけられる愚は犯さない。


 更に、その辺からとって来た木の枝や落ち葉で完璧に偽装する。

 ドアを開けると中は真っ暗だ。壁に備えられた明かり石に魔力を注ぐ。本も読めない程度の明るさしかないが、魔力を込めるとほんのり光るエコなアイテムだ。


 部屋の奥に、敷き藁をくるんだ布が敷いてある。その上には毛布。俺ベッドだ。手前にほんの少しのスペースがある。そこで靴を脱ぎ、装備を外す。


 立ち上がれるほど高さがないので、四つん這いでベッドに進み、寝転がった。

枕代わりの布袋に頭を沈める。


「ああぁ…」


 溜息のような、風呂で出る安息の声が肺から自然に出た。

 やっぱし家は良い。いつかもっといい家を手に入れたい。


 俺を騙そうとする悪辣な金持ちとか現れれば、家ごと奪ってやるのに。でも土台を移動式にするのが難題だよなあ…。


 しばらく目を閉じ、休んでから起き上がった。異次元収納から水とパンを取り出しかぶりつく。

 ああ、これ最高じゃない?


 異次元収納はお約束で時間経過がない。入れた時のまま出てくる。このパンは焼き立てを買ったのでホカホカだ。


 温かくて、柔らかい。こういうのを沢山入手しておけば、飢えることはない。

 全然問題ないじゃん。もう、誰とも会わず、こうやって生きていこうかな。俺は大丈夫。前世でも、家から三日出ないとかザラだったし。


 これで人と関わらず生きていこう。人に迷惑かけちゃいけないからな。

 できるできる。パソさえあれば、贅沢言わない、ゲームできればいいや。

 あと、スマホは欲しいかな。

 いやいや、ネットないから意味ないな。


 現実的に考えよう。

 ハムが欲しいな、チーズも欲しい。

 そういや炭酸が飲みたい。

 あと、モンスターに襲われても、びくともしない頑丈な家が欲しい。

 風呂も欲しいな。前世では入るのが面倒だったけど、この世界には風呂が絶対に必要なんだよ。


 はああぁ…みたいに、湯船につかると自然に出て来る、風呂息が出したい。


 ……金が無いんだよな。稼がないと…パンも買えないよ。

 うん、もうちょっと頑張ってから引退しよう。まだ若いんだから。


 そうだよ、俺は変わるんだから…。


 今度こそ秘密を打ち明けられる仲間を見つけるんだ。

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