第3話


 パーティ追放を言い渡されてから二日経った。


 パーティを抜けた俺を、誰もが認識していたが、案の定、宿でもアイテム屋でも酒場でも、誰にも気の毒にとは、声をかけられなかった。

 わかったよ。僅かな可能性を期待していた俺がバカだった。


 俺はやっぱり性格が悪いんだ。

 俺はやっぱり性格が悪いんだ。



 やり直そう。この世界で俺はまだ十七歳、いくらでもやり直せる。計画通りこの町を出て行こう。

 

 宿に戻って荷物をまとめよう。そう思ったところで仲間を見つける。


 いや、元仲間だな。俺はもう、彼らの仲間じゃないんだ。

 仲間はいない、友達もいない男だ。


 泣きそうだ。自分を追い詰めるのはよそう。



 見ない顔が仲間に加わっている。身軽そうな男だ。斥候か、狩人だろうか。癒しの魔法使いだけではあって欲しくないものだ。


 四人パーティなら、ベストなチョイスだと思う。それにしても、男を選ぶなんてデッキは本当にちゃんとしてる。


 更に女入れて、ただれたパーティにでもなったら超笑っていたのに。残念だ。

 …いや、俺はなにを。なにも残念なことは無いじゃないか。


『頑張れよ…』


 新たな仲間と手を結び、意気揚々とダンジョンに向かう、明日も明後日も楽しそうな彼らを、仲間のいる彼らを、俺は作り笑顔で見送った。

 


 ダンジョン三階層。ここは土っぽい洞窟が続く階層だ。見送ったはずなのに、何故か俺は彼らを尾けていた。


 いや、誤解しないでね。復讐しようとかじゃないよ。そこまで性格悪くはない。よく考えてみると、俺は彼らの命をめっちゃ救ってるんだ。


 俺がいなかったら、彼ら十回は全滅してるからね。ちょっと、このまま放っておくってのはできなかったんだよ。


 彼らに気付かれないよう距離を大きくとって、後を尾けている。言っておくけど、俺はこの程度のダンジョンなら一人でも全然平気だ。最強だからね。

 

 初めてのメンバーを加えているのに、彼らは連携も上手く取れていたし、皆落ち着いていた。


 時々笑い声が上がる。普段あまり喋らないイラーザの声まで響いていた。俺が普段のイラーザを変えていたようだ。げんなりする。


 彼らは難なく五階層に到達してしまった。

 灰色の石質の岩肌の階層だ。彼らと俺が到達していた最大深度に、新パーティはあっさりと、危なげなく辿りついてしまった。



「ふう…」

 少し残念に思った。酷い目に遭ってるところを助けてやりたかったのに。俺がいなくても全然平気なんてつまらないだろ。


 こういうところだよ。

 …もういい、引き返そう。

 

「洞窟熊だ、逃げろー!」


 俺が半身になった所でデッキの叫び声が聞こえた。


 洞窟熊は、初心者がダンジョンで遭うには厄介な敵だ。洞窟のサイズ一杯という程の、扁平な頭を持った熊顔のモンスターで突進力が半端ない。


 洞窟熊の顔面は太い針金を思う程の剛毛に覆われており、小さな目がその林の奥にある。突き進んでくる盾のような顔面にはおよそ弱点がない。


 逃げ場のないところで対峙した場合、対処法は決まっている。防御力が強い盾役のメンバーがその一撃に耐え、足止めをする。盾役が耐えている間に後衛が倒す。


 一発で仕留められる高火力の魔法を使う。


 高い俊敏性で身をかわし、壁と巨大な頭の隙間を通って弱点の背中を攻撃する。これが洞窟熊を倒すセオリーとなっている。


 これができない初心者では、吹っ飛ばされて、地に倒れたところを鉤爪だらけの六本の足で踏み殺されてしまう。


 デッキは戦士として、なかなかの防御力を持つが、洞窟熊を押さえきる力はまだないだろう。


 イラーザの魔法はまだ、初心者を越えたばかり。二発以上撃たねば倒せない。


 シリルの才、プリーストとは、祈りを起原として治療と加護を行使するものだ。体を鍛えていない彼女では洞窟熊とは戦うすべがない。


 新加入の彼はかわせるかもしれないが、他は弾き飛ばされ、確実に踏みつぶされるだろう。ようするに、今のデッキのパーティでは洞窟熊は倒せない。


 ピンチだな。

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