第2話
俺は、パーティの中で安心感より、便利感より、信頼感より、迷惑で、邪魔な感の秀でた人間だったようだ。
これは痛い。
俺が思っていたより、俺は性格が悪かったのだろう。そばに置いておくのが耐えられない程だったんだ。
俺は性格が悪くてパーティを追い出された。
俺は性格が悪くてパーティを追い出された。
大事なことだから二回繰り返す。
認めるしかない。
認めるしかない。
「ゔっ…」
なんか目頭が熱くなった。胸が苦しい。
これはあれだな。
トキオを追い出すなんて許せない。いいよ、私と新たにパーティ組もうよ。
あいつら何もわかってねーな!
…みたいな、幸福展開はないな。
バカな事を…。なにを夢想しているのか。大体、俺には友達がいないじゃないか。
涙がこぼれないよう、夜空を見ながら歩く。
俺は転生者だ。
突然異次元に吸い込まれてこの世界、インクブスに体を得たわけじゃない。普通に生まれたタイプだ。転生というか、前世の記憶を持って生まれたって感じだ。
前世の事は二歳ぐらいから少しずつ思い出した。
この世界の父親は、飲んだくれのクソ野郎で、母親は弱い人だった。今の俺に、家族はいない。今はそう思っている。
何しろ奴隷として売り払われて、死んじまった経験があるからね。
この時は本当に苦労したんだ。
それよりまずは、巨大な秘密の方だ。俺には巨大な秘密がある。この国の公式行事である鑑定の儀でもばれなかった、秘密の才を持っている。
奴隷の時の、死から逃れられたのもそれのお陰だ。表の才である、癒しの魔法使いは、冒険者が羨望する才ではない。
覚えられる呪文は多いが、どれも初級程度でその先がない。
上級魔法使い、重戦士とかに覚醒しないとされている。
辺境の村人達になら重宝される才ではあるが、一流冒険者の才としては物足りないというわけだ。
だが、現時点でも断言できる。
俺は世界一強い。
俺は世界一強い。
ガッ!
俺はいきなり石畳の上に投げ出された。
一体、何につまずいたかと振り向くと巨漢のモヒカンが、にやけた笑いを浮かべていた。
コイツの名はなんだったか…。
荒くれが多い冒険者の中でも、特に問題行動を起こすバカだ。何故か俺を目の敵にしている。
いや、理由ははっきりしているな。目だ。俺の目つきが気に食わないそうだ。
『何もできねえ中途半端な野郎のくせに、人を下に見てやがる』
だそうだ。
世界一を語ったところで転ばされて最低だが、今の俺には、反撃したり実力見せたりする気力がなかった。
俺が悪いんだろ。そんな目を皆に向けてるんだろ?悪かったよ。何もかも、性格の悪い俺が悪いんだろ。死ねばいいか?
いや、冗談じゃない。死にたくはないな。
この世界に生まれて、まだ何もいいことないんだ。生き汚くこの生にしがみついてやる。いつか幸せになってやる。
とりあえず、この町マズールを出て行くから、もう放っておいてくれ。
ふらふらと立ち上がり、そのまま相手にせず歩き去ろうとすると、モヒカンが首根っこを掴みにくる。
さすがにこれ以上好きにさせるのも面倒だ。俺は心で唱える。
『超速』
俺の秘密の才は時空魔法。俺は時空を操れるのだ。この世界で、公には存在していない才だ。誰も知らない。
途端に、声や音が間延びする。世界がゆっくり動き出すようだ。
「むあぁてぇぇ、てむめぇぇー」
これは俺だけが、この世界で早くなる呪文だ。だから誰にも気づかれず、行使できる。
だけど、俺はこいつをひけらかして使ったことはない。
今回の場合も、極めて自然にかわすのがコツだ。ぶれない。漫画でいうと流線で表現されるほど素早く動いてはいけない。できるがしない。
なんだ、今の動きは!
見えなかったぞ、ただ物じゃない!
修行が足りんな、わしには見えておったぞ。
みたいな展開はいらない。俺は目立たず責任なく、余計なものを背負わず、楽しく生きて行く予定なんだ。楽しくの部分は、その片鱗も見えてはいないが。
ゆっくりと動き、ギリギリの線でかわす。
『解除』
通行人やバカの連れには、俺がふらついて、たまたま避けたように見えただろう。力任せに掴もうとした、力の行き先を失ったバカは、みっともなく地面に頭から突っ込んだ。
『ウププ、バーカ』
はっ、これだよ!
こういうのが、これが見えるんだよ、勘のいい人間には!
迷惑だよ、これが迷惑なんだよ。これが見えちゃってるんだよ、俺は!
「うわああああーー!」
俺は走ってその場から逃げだした。
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