第7話お祭り当日

俺はいつものようにグレッグとレゴリーと共にお祭りへと出かけていた。学校周辺の大通りも車を通行禁止にし、この国にある一番大きな公園を貸し切って行われる一大イベントだ。王宮の前で待ち合わせするといつもの恰好の二人だが、お祭りへの期待感が俺にも段々と伝わってくる感じだ。

公園へと通じる大通りはおそらく祭りを楽しみに来たであろう人でいっぱいだった。時々、普段人々が来ているような服でなく民族衣装のようなおしゃれで変わった衣装を着ている人もいる。ライトの記憶によると、それらはお祭りの時や、式典の時など特別な時だけに着る洋服らしい。日本における着物のようなものなのだろう。小さい子供たちはお面を顔に結び付け、金魚釣りで釣ったであろう金魚を袋に入れて、その袋をじっと眺めている者もいた。

公園に入ると、そこにはもうお祭りの熱気が伝わってきていた。赤色の提灯が艶やかに光り輝き、人の喧騒と隙間なく並べられた屋台のまぶしいほどの明かりがこちらを照らしてくる。

「はい、りんご飴三つで1000ルーブね」

「あれが落としやすいんじゃねえかな」

「こいこい、あの熊のぬいぐるみこい!!」

様々な声が会場内に響いていた。道を歩きながらも、興味がある屋台を横目で覗きながら俺たちは進んでいく。

「お前ら何したい?」

「やっぱ射的じゃない?とりあえず射的は外れんやろ」

というレゴリーの一言で俺たちは最初に射的をすることになった。射的の屋台の中で子供の用の小さなものではなく、大きなボードゲームや人形が商品となっているものを選んだ。

「お、お兄ちゃんたちやってくかい?」

陽気な店主が俺たちに銃を渡す。日本と同じような感じで先端にコルクのような球を込め、発射するタイプのようだった。

「はい、三人分お願いします」

三人分銃を受け取ると、もちろん商品を吟味するフェーズに入る。

「あのボードゲームが欲しいな」

「でかすぎて、あれ落とすのはなかなか難しくないか?」

確かにボードゲームの大きさは英語の辞書ほどで、簡単に落とせるというわけではなさそうだった。

「(魔法を使えば一発だけどな)」

「(それはご法度ですよ、ライト王子)」

ついついなんとういうか、こう姑息というか番外戦術のようなものを使いたがるのは俺の癖な気がする。

「じゃあ、俺は横にある仮面を狙おうかな」

ボードゲームの横にある仮面は黒く、羽がついていてもちろん、顔全域が隠れるようになっていた。仮面舞踏会で使われるようなおしゃれなものだった。

「お、いいですね。じゃあ、俺はあの人形かな」

「俺はでっかいお菓子でいいか」






日本にいたころから、俺は射的が得意なのだ。得意顔で俺は仮面をかぶり、祭りを闊歩していた。周りの人からの視線がこっちに集まっているのがわかり素晴らしく気持ちがいい。レゴリーとグレッグは俺が被るというと少し嫌そうな顔をしたが二人にはりんご飴を差し上げるということで話を付けた。俺もついでに仮面の下からりんご飴を入れて食べている。やはり素晴らしいぞ、りんご飴は。

「やあ!やはり、ライト坊や一行じゃないか」

俺の背後からそんな野太い声が聞こえる。仮にもこの国の第七皇子である俺をライト坊主などと呼べるのは俺が思い当たる限り、ただ一人だ。

「レーンさん」

俺が振り返ると、やはり想像通りの大柄でまるで熊のような体の大男が俺たちの目の前には立っていた。

「久しぶりだなあ、坊主」

レーンさんに思いっきり髪を撫でられる。整えてきた髪型は台無しになったが、悪い気はしない。

「まあ、俺の店にも遊びに来てくれよ」

「もちろん、行きますよ」

レーン商会、名前からして察しがつくと思うのだが、目の前の男が代表をやっている商会でこの国の産業分野を隅から隅まで牛耳っている商会でもある。商会、といわれるとピンと来ないかもしれないがこの世界での商会というワードは日本での総合商社に近い。つまり、こいつは日本でいうと三〇商事の社長またはCEOであるということだ。この国の産業分野のトップといってもいい。俺のことをライト坊主呼ばわりできるのはそのためである。

「そうか、それはよかった」

といい、レーンが手を叩くと案内役と思われる女性が音もなくすっと横から出てきた。

「紹介するぜ、エマだ」

レーンはその女性の肩に自らの手を置き、彼女を僕たちへと紹介した。エマと呼ばれた女性は俺たちの顔をじっと見ながら、深くお辞儀を返した。

「ライトです」

「グレッグです」

「レゴリーです」

俺たちも社交辞令として名前は教えておく。

「よろしくお願いします。ライト様、グレッグ様、レゴリー様」

彼女は栗色の髪と、茶色い瞳をしていた。綺麗な二重をしていて少し人に対して知的な印象を与えるような見た目だった。

「よろしく」

「彼女は他の商会で素晴らしい働きをしていたから、ヘッドハンティングで引き抜いいたんだ」

確かに仕事が出来そうな雰囲気を横のエマ、という女性は醸し出していた。

「もしかしたら、次期社長となる可能性もあるので一応ご紹介を」

なるほど、それで。ならば、今のうちに仲よくなって損はない。ここで仲良くなっておくことによってお菓子やボードゲームを優先的に貰えたりするからな。

「では、またなライト坊」

「ええ、また会いましょう」

そういって、嵐のようにレーンは去っていった。同時に音もなくエマも去っていった。ただ、俺は少しだけ。去る直前のエマの目に俺に対する敵意のようなものが映った気がした。それは次の瞬間には消え去っていたがしかし……。気のせいだったのだろうか。それが気になって頭から離れなかった。


























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